早河シリーズ短編集【masquerade】
破局の理由は彼氏の浮気。それも麻子も本命ではなく何人もいる浮気相手のひとりだったことが後から発覚して、二重のショックとなった。
『あの子はあれで一途なんだよな。ゴールデンウィークに会った時も元彼が忘れられないって愚痴って、酒そんな強くなさそうなのにやけ酒して。ほうっておけなかった』
「麻子ちゃんが好きなんだね」
『参ったよ。全然タイプじゃないのにさ』
大きな窓から西日が差して足元の床がオレンジ色に染まっている。
「どうしてなかったことにしようって言ったの?」
『酔った勢いで手を出したと思われたくなかった。今さら弁解しても遅いけど、俺は誰にでも手を出したりしない。麻子ちゃんだったから……。酔っ払った女の子ホテル連れ込んでヤることヤって、なかったことにするって男として最低だと自分でも思う』
「鈴川くんになかったことにしようって言われて麻子ちゃんは傷付いたんだよ。鈴川くんの気持ちをちゃんと伝えないと麻子ちゃんは傷付いたままだよ?」
麻子は鈴川とのことはもう忘れると言っていたが、それは強がりだ。本当は鈴川の気持ちが知りたい、だけど知るのが怖い。
知って、また傷付くのが怖い。
『好きな子傷付けておきながら、軽い男に思われたくないってグダグダ迷ってるのも俺のただの保身だよな。だけど麻子ちゃんはまだ元彼を忘れてない。告っても返事はわかりきってる』
「なんで決めつけるの? 忘れられない人がいても、その人を心に抱えながらどう生きるかは麻子ちゃんが決めること。鈴川くんが気持ちを伝えないと、麻子ちゃんの本当の気持ちもわからないよ」
『麻子ちゃんの本当の気持ちって……』
「二人ともお互いと向き合ってない。麻子ちゃんは怖がってるし鈴川くんも怖がってるよね」
普段は穏やかな発言が多い美月からの鋭い指摘に鈴川は呆気にとられた。
『美月ちゃんて、ぽわーんとしてるようで意外と鋭いな』
「ねぇ、それ褒めてる? そんなにぽわーんとしてるかなぁ」
『ごめんごめん。褒めてるんだよ。ドーンと肝が据わってるっていうか。ほんと不思議な子だね。でも美月ちゃんに言われて気付いた。麻子ちゃんと向き合うのが怖かったんだ』
「それは麻子ちゃんもね。辛い恋の後に一歩踏み出すのは皆怖いよ。だから麻子ちゃんが踏み出すきっかけを鈴川くんが作ればいいんだよ」
二人はソファースペースを離れて下りのエレベーターに乗り込んだ。
『旦那さんと結婚しようと思った決め手は何だった?』
「決め手かぁ。何だろう……」
エレベーターが一階に到着する。ブルーミングハウス本社を出ると目の前は国道。最寄りの新宿駅まで美月と鈴川は国道沿いを歩いた。
「決め手って言うのものは、特にないかも。結婚するならこの人がいいって思ったんだ」
『ほぉー。やっぱり既婚者の言葉は違いますなぁ。この人だってピンと来たってよく言うよね。そういうもんか……』
新宿駅に着くまでの間、大学時代の武勇伝を饒舌に語る鈴川の話に笑い転げる美月を、物陰から見ている者がいた。
話に夢中になる美月と鈴川は自分達が尾行されていたなんて、全く気付いていなかった。
『あの子はあれで一途なんだよな。ゴールデンウィークに会った時も元彼が忘れられないって愚痴って、酒そんな強くなさそうなのにやけ酒して。ほうっておけなかった』
「麻子ちゃんが好きなんだね」
『参ったよ。全然タイプじゃないのにさ』
大きな窓から西日が差して足元の床がオレンジ色に染まっている。
「どうしてなかったことにしようって言ったの?」
『酔った勢いで手を出したと思われたくなかった。今さら弁解しても遅いけど、俺は誰にでも手を出したりしない。麻子ちゃんだったから……。酔っ払った女の子ホテル連れ込んでヤることヤって、なかったことにするって男として最低だと自分でも思う』
「鈴川くんになかったことにしようって言われて麻子ちゃんは傷付いたんだよ。鈴川くんの気持ちをちゃんと伝えないと麻子ちゃんは傷付いたままだよ?」
麻子は鈴川とのことはもう忘れると言っていたが、それは強がりだ。本当は鈴川の気持ちが知りたい、だけど知るのが怖い。
知って、また傷付くのが怖い。
『好きな子傷付けておきながら、軽い男に思われたくないってグダグダ迷ってるのも俺のただの保身だよな。だけど麻子ちゃんはまだ元彼を忘れてない。告っても返事はわかりきってる』
「なんで決めつけるの? 忘れられない人がいても、その人を心に抱えながらどう生きるかは麻子ちゃんが決めること。鈴川くんが気持ちを伝えないと、麻子ちゃんの本当の気持ちもわからないよ」
『麻子ちゃんの本当の気持ちって……』
「二人ともお互いと向き合ってない。麻子ちゃんは怖がってるし鈴川くんも怖がってるよね」
普段は穏やかな発言が多い美月からの鋭い指摘に鈴川は呆気にとられた。
『美月ちゃんて、ぽわーんとしてるようで意外と鋭いな』
「ねぇ、それ褒めてる? そんなにぽわーんとしてるかなぁ」
『ごめんごめん。褒めてるんだよ。ドーンと肝が据わってるっていうか。ほんと不思議な子だね。でも美月ちゃんに言われて気付いた。麻子ちゃんと向き合うのが怖かったんだ』
「それは麻子ちゃんもね。辛い恋の後に一歩踏み出すのは皆怖いよ。だから麻子ちゃんが踏み出すきっかけを鈴川くんが作ればいいんだよ」
二人はソファースペースを離れて下りのエレベーターに乗り込んだ。
『旦那さんと結婚しようと思った決め手は何だった?』
「決め手かぁ。何だろう……」
エレベーターが一階に到着する。ブルーミングハウス本社を出ると目の前は国道。最寄りの新宿駅まで美月と鈴川は国道沿いを歩いた。
「決め手って言うのものは、特にないかも。結婚するならこの人がいいって思ったんだ」
『ほぉー。やっぱり既婚者の言葉は違いますなぁ。この人だってピンと来たってよく言うよね。そういうもんか……』
新宿駅に着くまでの間、大学時代の武勇伝を饒舌に語る鈴川の話に笑い転げる美月を、物陰から見ている者がいた。
話に夢中になる美月と鈴川は自分達が尾行されていたなんて、全く気付いていなかった。