早河シリーズ短編集【masquerade】
5月11日(Fri)
ブルーミングハウスのトータルコーディネート部では今日から二人一組のペアでショールーム業務が始まった。
本社近くの新宿ショールームは地下一階から地上七階まであり、地下一階はアウトレット、一階はカーテンや照明雑貨、二階は敷物とリビングダイニング、
三階はキッチン、四階は書斎とオフィス家具、五階は北欧家具、六階はキッズインテリアや和雑貨、七階が寝具と、フロアごとに分けられている。
各フロアでも学生や社会人の独り暮らし、夫婦、家族、それぞれのライフスタイルに合わせたモデルルームスペースがあり、季節に合わせてモデルスペースの展示も変化する。
上司の新見千鶴の指導の下で行うショールーム業務は慣れないことも多く、本社の内勤よりもハードワークだ。ペアの松永と交代で休憩に入った美月に千鶴が淹れたてのコーヒーを渡した。
「年配のご夫婦の接客、良かったよ。高齢の方にも聞き取りやすいように、相手のペースに合わせてゆっくり話すことが自然に出来ていた。木村さんは接客に向いてるね」
「そう言っていただけて嬉しいです。大学時代に本屋でバイトをしていたので、その時の経験が少しは生かせているのかもしれません」
先ほど担当した老夫婦は美月がすすめた和雑貨を気に入って購入してくれた。達成感に包まれた疲労が今は心地いい。
「どうしたらお客様に満足していただける仕事ができるかを自分なりに考えて実行する、それってとても大事なことだから。これからも木村さんの良さを生かした接客をしましょうね」
「はい。頑張ります」
休憩室の椅子に千鶴と隣り合って座り、二人でコーヒーをすする。美月は老夫婦の穏やかな笑顔を思い出して微笑した。
「あのご夫婦、素敵でしたね。奥様は旦那様の好みを知り尽くしていましたし、旦那様も奥様の好みを尊重していて」
「ねぇ。来月に金婚式を迎えられるって言っていたけど凄いことよ。私はバツイチだから、50年連れ添って金婚式を迎えるなんて未知の世界」
千鶴の左手薬指に指輪はない。彼女は数年前に離婚して小学生の子どもがひとりいる。
「木村さんのご主人どんな人? 年上だっけ?」
「五歳上です。普段は余裕たっぷりの冷静な人なんですけど、過保護だなぁって思うくらい心配性なところもあって、なんか可愛いって思っちゃいます」
「ああ、わかる。私の友達の旦那にも似たタイプの人がいるよ。その人、弁護士やってるんだけど普段はクールな弁護士さんなのに、奥さんと子どものことになると心配で堪らないみたい。友達が“旦那が過保護で困る”ってぼやいてるもん。惚れた女にとことん弱いタイプなのかもね」
新入社員で既婚者。その特徴的な肩書きが先輩社員にどう映るか、入社前は不安だった。
だが美月が配属されたトータルコーディネート部の千鶴を筆頭とした先輩社員が美月を色眼鏡で見たり敵意を向けることはなく、丁寧に仕事を教えてくれる。
それが当たり前のことなのだろうが、同期の森下薫が配属された広報部は人間関係が何かと大変らしい。
新入社員と言うだけで毛嫌いする女性の先輩社員もいるようで、たまに薫の愚痴を聞かされる。
同じブルーミングハウス社内でも部署によって展開される人間関係は様々。
つくづく職場環境と人間関係に恵まれたと感謝して、休憩を終えた美月は残り30分のショールーム業務に励んだ。
ブルーミングハウスのトータルコーディネート部では今日から二人一組のペアでショールーム業務が始まった。
本社近くの新宿ショールームは地下一階から地上七階まであり、地下一階はアウトレット、一階はカーテンや照明雑貨、二階は敷物とリビングダイニング、
三階はキッチン、四階は書斎とオフィス家具、五階は北欧家具、六階はキッズインテリアや和雑貨、七階が寝具と、フロアごとに分けられている。
各フロアでも学生や社会人の独り暮らし、夫婦、家族、それぞれのライフスタイルに合わせたモデルルームスペースがあり、季節に合わせてモデルスペースの展示も変化する。
上司の新見千鶴の指導の下で行うショールーム業務は慣れないことも多く、本社の内勤よりもハードワークだ。ペアの松永と交代で休憩に入った美月に千鶴が淹れたてのコーヒーを渡した。
「年配のご夫婦の接客、良かったよ。高齢の方にも聞き取りやすいように、相手のペースに合わせてゆっくり話すことが自然に出来ていた。木村さんは接客に向いてるね」
「そう言っていただけて嬉しいです。大学時代に本屋でバイトをしていたので、その時の経験が少しは生かせているのかもしれません」
先ほど担当した老夫婦は美月がすすめた和雑貨を気に入って購入してくれた。達成感に包まれた疲労が今は心地いい。
「どうしたらお客様に満足していただける仕事ができるかを自分なりに考えて実行する、それってとても大事なことだから。これからも木村さんの良さを生かした接客をしましょうね」
「はい。頑張ります」
休憩室の椅子に千鶴と隣り合って座り、二人でコーヒーをすする。美月は老夫婦の穏やかな笑顔を思い出して微笑した。
「あのご夫婦、素敵でしたね。奥様は旦那様の好みを知り尽くしていましたし、旦那様も奥様の好みを尊重していて」
「ねぇ。来月に金婚式を迎えられるって言っていたけど凄いことよ。私はバツイチだから、50年連れ添って金婚式を迎えるなんて未知の世界」
千鶴の左手薬指に指輪はない。彼女は数年前に離婚して小学生の子どもがひとりいる。
「木村さんのご主人どんな人? 年上だっけ?」
「五歳上です。普段は余裕たっぷりの冷静な人なんですけど、過保護だなぁって思うくらい心配性なところもあって、なんか可愛いって思っちゃいます」
「ああ、わかる。私の友達の旦那にも似たタイプの人がいるよ。その人、弁護士やってるんだけど普段はクールな弁護士さんなのに、奥さんと子どものことになると心配で堪らないみたい。友達が“旦那が過保護で困る”ってぼやいてるもん。惚れた女にとことん弱いタイプなのかもね」
新入社員で既婚者。その特徴的な肩書きが先輩社員にどう映るか、入社前は不安だった。
だが美月が配属されたトータルコーディネート部の千鶴を筆頭とした先輩社員が美月を色眼鏡で見たり敵意を向けることはなく、丁寧に仕事を教えてくれる。
それが当たり前のことなのだろうが、同期の森下薫が配属された広報部は人間関係が何かと大変らしい。
新入社員と言うだけで毛嫌いする女性の先輩社員もいるようで、たまに薫の愚痴を聞かされる。
同じブルーミングハウス社内でも部署によって展開される人間関係は様々。
つくづく職場環境と人間関係に恵まれたと感謝して、休憩を終えた美月は残り30分のショールーム業務に励んだ。