早河シリーズ短編集【masquerade】
雅が隼人に謝罪する光景を目撃した社員達がまたざわついている。
『頭上げてください。三輪さんのことには俺にも責任があります』
「あなたと三輪の事情は聞いてる。でも過去にどんな経緯があろうと、あなたの仕事をうちの部下が邪魔していることには変わりはないの。これは三輪の上司としての私の責任です」
上体を起こした雅は固い表情で七海をねめつける。
「三輪さん。私は部下のプライベートには干渉しない主義だけど、この男だけは止めておきなさい。あなたの手に負える男じゃない」
「……嫌ですっ! だってずっと捜していたんだから……。ずっと好きだった。もう一度あなたに会いたかった。やっと見つけたのに……」
泣き出しそうな赤い瞳で七海は隼人を見つめた。恋い焦がれていたことを感情的に訴えられても、隼人は七海に対して同情や別の感情は生じない。
ただ、今の七海と似た表情に隼人は覚えがある。
『じゃあ……あんたは幸せ者だな。また俺に会えたじゃん。それは俺もあんたも生きてるからだ。俺達が生きてるから、もう一度会えたんだよ』
とうとう泣き出した七海は溢れる涙を拭うのも忘れていた。二人から一歩下がった雅は成り行きを見守っている。
『もしも、どちらかが死んでいたらどんなに会いたくても会えない。もう一度会いたい人間が俺にもいるけど、そいつには絶対会えないんだ。死んでしまったからな』
ざわついていたエントランスもいつの間にか静寂の時を刻んでいる。誰もが隼人の言葉を一言一句聞き逃すまいと、息を殺して耳を傾けていた。
会いたいのに二度と会えない。犯罪組織カオスのクイーンだった寺沢莉央。
彼女は今頃、こんな汚い世界とは無縁の天空という名の場所で、無邪気に笑っているのかな?
『生きてる限り会えるんだよ。どんな形でもあんたは俺に会えただけ幸せ者じゃねぇの?』
会いたいのに会えない人がいるのは美月も同じ。もう一度会いたい、でも会えない。
会いたいその人はこの世にはいないから。
「……ごめんなさい」
七海は泣き崩れてしゃがみこんだ。雅が七海をなだめて立ち上がらせる。
「ここは他所様の企業です。泣くのなら外でね。今日はもう帰りなさい」
雅に諭されて七海は泣きながらJSホールディングスを去った。
七海が去ったことで、通常の空気を取り戻しつつあるJSホールディングス正面玄関から隼人と雅は外に出る。
「さっきの話、顔に似合わず泣かせる話するじゃない」
『顔に似合わずは余計です』
「こんなことなら私が出る幕じゃなかったかもね」
雅はかつての職場を懐かしげに見上げた。JSホールディングスの巨大なビルに太陽の光が反射している。
『いいえ、助かりました。あそこで長谷川さんが出て来てくださらなかったらどうなっていたか。ありがとうございました』
「昔のよしみでお節介を焼いただけよ。あなたが困ってるから助けてやってくれって、田崎がしつこくてね」
隼人の上司の田崎次長は雅がJSホールディングスに勤務していた頃の不倫相手だ。
『頭上げてください。三輪さんのことには俺にも責任があります』
「あなたと三輪の事情は聞いてる。でも過去にどんな経緯があろうと、あなたの仕事をうちの部下が邪魔していることには変わりはないの。これは三輪の上司としての私の責任です」
上体を起こした雅は固い表情で七海をねめつける。
「三輪さん。私は部下のプライベートには干渉しない主義だけど、この男だけは止めておきなさい。あなたの手に負える男じゃない」
「……嫌ですっ! だってずっと捜していたんだから……。ずっと好きだった。もう一度あなたに会いたかった。やっと見つけたのに……」
泣き出しそうな赤い瞳で七海は隼人を見つめた。恋い焦がれていたことを感情的に訴えられても、隼人は七海に対して同情や別の感情は生じない。
ただ、今の七海と似た表情に隼人は覚えがある。
『じゃあ……あんたは幸せ者だな。また俺に会えたじゃん。それは俺もあんたも生きてるからだ。俺達が生きてるから、もう一度会えたんだよ』
とうとう泣き出した七海は溢れる涙を拭うのも忘れていた。二人から一歩下がった雅は成り行きを見守っている。
『もしも、どちらかが死んでいたらどんなに会いたくても会えない。もう一度会いたい人間が俺にもいるけど、そいつには絶対会えないんだ。死んでしまったからな』
ざわついていたエントランスもいつの間にか静寂の時を刻んでいる。誰もが隼人の言葉を一言一句聞き逃すまいと、息を殺して耳を傾けていた。
会いたいのに二度と会えない。犯罪組織カオスのクイーンだった寺沢莉央。
彼女は今頃、こんな汚い世界とは無縁の天空という名の場所で、無邪気に笑っているのかな?
『生きてる限り会えるんだよ。どんな形でもあんたは俺に会えただけ幸せ者じゃねぇの?』
会いたいのに会えない人がいるのは美月も同じ。もう一度会いたい、でも会えない。
会いたいその人はこの世にはいないから。
「……ごめんなさい」
七海は泣き崩れてしゃがみこんだ。雅が七海をなだめて立ち上がらせる。
「ここは他所様の企業です。泣くのなら外でね。今日はもう帰りなさい」
雅に諭されて七海は泣きながらJSホールディングスを去った。
七海が去ったことで、通常の空気を取り戻しつつあるJSホールディングス正面玄関から隼人と雅は外に出る。
「さっきの話、顔に似合わず泣かせる話するじゃない」
『顔に似合わずは余計です』
「こんなことなら私が出る幕じゃなかったかもね」
雅はかつての職場を懐かしげに見上げた。JSホールディングスの巨大なビルに太陽の光が反射している。
『いいえ、助かりました。あそこで長谷川さんが出て来てくださらなかったらどうなっていたか。ありがとうございました』
「昔のよしみでお節介を焼いただけよ。あなたが困ってるから助けてやってくれって、田崎がしつこくてね」
隼人の上司の田崎次長は雅がJSホールディングスに勤務していた頃の不倫相手だ。