早河シリーズ短編集【masquerade】
新見千鶴の腕時計の針が午後4時を示す。ショールームの事務所に入った彼女は、中にいた女性社員に声をかけた。
「池田くんと木村さん戻って来た?」
「新入社員の二人ですよね。来てませんよ」
「そう。おかしいなぁ。二人の業務は4時で終わりだからもう戻って来るはずなんだけど」
4時になっても美月と池田は事務所に現れない。二人の荷物は事務所に置いたままだ。
千鶴と女性社員の話を聞いていた男性社員がパソコンから顔を上げた。
『その二人ならさっき地下で見掛けましたよ』
「地下ってアウトレットの?」
『ええ。二人で倉庫の方に行きました。新見さんの指示だろうと思って素通りして来たんですが……』
「そんな指示出してないよ。お客様にアウトレット希望の方もいなかったと思う」
千鶴は事務所を出て地下一階に向かった。普段から人の出入りが頻繁ではないアウトレットフロアは、静かな分だけ物音がよく響く。
奥から台車を押す音が聞こえてきた。千鶴は注意深くフロアを見渡して音のする方向に進む。ベッドやタンスの展示品が並ぶ一角を過ぎて、通路を左に曲がった場所で彼女は立ち止まった。
台車を押す音が少しずつ大きくなる。向こう側から曲がってきた台車が通路に立つ千鶴に気付いて動きを止めた。
「池田くん、捜してたのよ。そのダンボール何? ずいぶん大きいわね」
『お客様に頼まれた商品です』
愛想よく微笑んだ池田は大きなダンボールを載せた台車をまた押し始めた。千鶴は眉をひそめて台車に載るダンボールを凝視する。
ダンボールに書かれた商品名は確かにブルーミングハウスで取り扱いのある商品だ。
「木村さんは一緒じゃないの?」
『接客で上にいますよ。申し訳ありませんが、新見さんは木村さんが接客されているお客様をこちらに連れて来ていただけませんか? お客様に商品の確認をお願いしたいので』
「わかった。木村さんとお客様は何階にいるの?」
『五階です』
五階は事務所に寄る前に見回りをしたフロアだが、美月はいなかった。それに事務所の男性社員は、ついさっき美月と池田を地下で目撃したと言っている。
エレベーターに行きかけた千鶴を引き留めた不確かなモノ。釈然としない後ろ髪を引かれる感覚。
「そのダンボールの中見せてくれる?」
『ただの商品ですよ』
「いいから見せなさい!」
台車を押す池田の腕を強引に掴んで彼を突き飛ばした。よろめいた池田の制止を振り切って千鶴はダンボールの蓋を開けた。
「池田くん……これは一体……」
ダンボールの中には、目隠しをされてガムテープで口を塞がれた美月が窮屈そうに身体を折り曲げて横たわっていた。美月の身体にはロープが巻かれている。
千鶴はあまりの衝撃の光景に背後に気が回らなかった。池田を問い質す暇もなく、千鶴は床に倒れ込む。
スタンガンを持つ池田が冷めた目で彼女を見下ろしていた。
『俺に従っていれば痛い思いもしなかったのに。新見さんは木村さんと違って素直じゃないですね』
「待って……池田く……ん……」
ガラガラ、ガラガラ、台車から漏れる不穏な不協和音が静寂のフロアに響き渡り、やがて音は聞こえなくなった。
「池田くんと木村さん戻って来た?」
「新入社員の二人ですよね。来てませんよ」
「そう。おかしいなぁ。二人の業務は4時で終わりだからもう戻って来るはずなんだけど」
4時になっても美月と池田は事務所に現れない。二人の荷物は事務所に置いたままだ。
千鶴と女性社員の話を聞いていた男性社員がパソコンから顔を上げた。
『その二人ならさっき地下で見掛けましたよ』
「地下ってアウトレットの?」
『ええ。二人で倉庫の方に行きました。新見さんの指示だろうと思って素通りして来たんですが……』
「そんな指示出してないよ。お客様にアウトレット希望の方もいなかったと思う」
千鶴は事務所を出て地下一階に向かった。普段から人の出入りが頻繁ではないアウトレットフロアは、静かな分だけ物音がよく響く。
奥から台車を押す音が聞こえてきた。千鶴は注意深くフロアを見渡して音のする方向に進む。ベッドやタンスの展示品が並ぶ一角を過ぎて、通路を左に曲がった場所で彼女は立ち止まった。
台車を押す音が少しずつ大きくなる。向こう側から曲がってきた台車が通路に立つ千鶴に気付いて動きを止めた。
「池田くん、捜してたのよ。そのダンボール何? ずいぶん大きいわね」
『お客様に頼まれた商品です』
愛想よく微笑んだ池田は大きなダンボールを載せた台車をまた押し始めた。千鶴は眉をひそめて台車に載るダンボールを凝視する。
ダンボールに書かれた商品名は確かにブルーミングハウスで取り扱いのある商品だ。
「木村さんは一緒じゃないの?」
『接客で上にいますよ。申し訳ありませんが、新見さんは木村さんが接客されているお客様をこちらに連れて来ていただけませんか? お客様に商品の確認をお願いしたいので』
「わかった。木村さんとお客様は何階にいるの?」
『五階です』
五階は事務所に寄る前に見回りをしたフロアだが、美月はいなかった。それに事務所の男性社員は、ついさっき美月と池田を地下で目撃したと言っている。
エレベーターに行きかけた千鶴を引き留めた不確かなモノ。釈然としない後ろ髪を引かれる感覚。
「そのダンボールの中見せてくれる?」
『ただの商品ですよ』
「いいから見せなさい!」
台車を押す池田の腕を強引に掴んで彼を突き飛ばした。よろめいた池田の制止を振り切って千鶴はダンボールの蓋を開けた。
「池田くん……これは一体……」
ダンボールの中には、目隠しをされてガムテープで口を塞がれた美月が窮屈そうに身体を折り曲げて横たわっていた。美月の身体にはロープが巻かれている。
千鶴はあまりの衝撃の光景に背後に気が回らなかった。池田を問い質す暇もなく、千鶴は床に倒れ込む。
スタンガンを持つ池田が冷めた目で彼女を見下ろしていた。
『俺に従っていれば痛い思いもしなかったのに。新見さんは木村さんと違って素直じゃないですね』
「待って……池田く……ん……」
ガラガラ、ガラガラ、台車から漏れる不穏な不協和音が静寂のフロアに響き渡り、やがて音は聞こえなくなった。