早河シリーズ短編集【masquerade】
身体を揺さぶられる振動で千鶴は目を開けた。血相を変えた男性社員と、その横で不安げにこちらを見つめる女性社員の顔が視界に飛び込んでくる。
「起き上がれますか?」
女性が千鶴の肩と背中を支えて彼女を抱き起こした。千鶴は朦朧とする頭を左右に振る。かすかに手足が痺れていた。
『新見さんも新入社員の二人も戻って来ないから様子を見に来たんです。そうしたら新見さんが倒れていて……。何があったんですか?』
何があったのかと聞かれて、ここで起きた出来事を思い出した千鶴の顔から血の気が引いていく。ダンボールに入れられた美月、遠ざかる台車の音──。
「大変なの! すぐに警察に連絡しないと……!」
『落ち着いてください。警察って?』
「池田くんが木村さんをダンボールに……ああっ! これ借りるね」
男性の胸ポケットに入る業務用携帯電話を借りてブルーミングハウス本社、トータルコーディネート部直通の電話番号をプッシュした。
*
トータルコーディネート部のフロアでは安藤部長が時計を見て首を傾げていた。時刻は午後4時半を過ぎている。
『池田くんも木村さんも帰りが遅いな。そろそろショールームから戻って来てもいい頃なんだが』
「きっと業務が立て込んでいるんですよ。こちら確認お願いします」
『はい、お疲れ様ね』
安藤のデスクに書類を置いた女性社員は、何気なく壁にかかる鍵束に目を留めた。壁に固定されたフックには倉庫や社用車の鍵がかけられている。
「誰か車使ってますか?」
『一台は午後から紺野さんが使ってるよ』
彼女はもう一度フックにかかる鍵の数を確認する。トータルコーディネート部の社用車は三台用意されているが、車の鍵は二台分なくなっている。
「もうひとつキーがありませんよ。昼休みまではあったのに」
『変だな。今日車使う予定があるのは、紺野さんだけだったと思うよ』
安藤が席を立とうとした時にデスクの電話が鳴った。
『はい、トータルコーディネート部、安藤……おお、新見さんか。どうした?』
電話をかけてきたのは新見千鶴だ。しかし千鶴の口調は取り乱していて、早口で用件をまくし立てている。
『……え? 新見さんごめん。落ち着いてもう一回言ってくれるかい?』
{池田くんが木村さんをダンボールに入れて連れ去ったんですっ! これは誘拐ですよ!}
千鶴の叫びの一報に愕然とした安藤の手から受話器が滑り落ちた。
「起き上がれますか?」
女性が千鶴の肩と背中を支えて彼女を抱き起こした。千鶴は朦朧とする頭を左右に振る。かすかに手足が痺れていた。
『新見さんも新入社員の二人も戻って来ないから様子を見に来たんです。そうしたら新見さんが倒れていて……。何があったんですか?』
何があったのかと聞かれて、ここで起きた出来事を思い出した千鶴の顔から血の気が引いていく。ダンボールに入れられた美月、遠ざかる台車の音──。
「大変なの! すぐに警察に連絡しないと……!」
『落ち着いてください。警察って?』
「池田くんが木村さんをダンボールに……ああっ! これ借りるね」
男性の胸ポケットに入る業務用携帯電話を借りてブルーミングハウス本社、トータルコーディネート部直通の電話番号をプッシュした。
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トータルコーディネート部のフロアでは安藤部長が時計を見て首を傾げていた。時刻は午後4時半を過ぎている。
『池田くんも木村さんも帰りが遅いな。そろそろショールームから戻って来てもいい頃なんだが』
「きっと業務が立て込んでいるんですよ。こちら確認お願いします」
『はい、お疲れ様ね』
安藤のデスクに書類を置いた女性社員は、何気なく壁にかかる鍵束に目を留めた。壁に固定されたフックには倉庫や社用車の鍵がかけられている。
「誰か車使ってますか?」
『一台は午後から紺野さんが使ってるよ』
彼女はもう一度フックにかかる鍵の数を確認する。トータルコーディネート部の社用車は三台用意されているが、車の鍵は二台分なくなっている。
「もうひとつキーがありませんよ。昼休みまではあったのに」
『変だな。今日車使う予定があるのは、紺野さんだけだったと思うよ』
安藤が席を立とうとした時にデスクの電話が鳴った。
『はい、トータルコーディネート部、安藤……おお、新見さんか。どうした?』
電話をかけてきたのは新見千鶴だ。しかし千鶴の口調は取り乱していて、早口で用件をまくし立てている。
『……え? 新見さんごめん。落ち着いてもう一回言ってくれるかい?』
{池田くんが木村さんをダンボールに入れて連れ去ったんですっ! これは誘拐ですよ!}
千鶴の叫びの一報に愕然とした安藤の手から受話器が滑り落ちた。