早河シリーズ短編集【masquerade】
「大丈夫?」
「はい。ご迷惑おかけしました」
ハンカチで涙を拭った有紗はかけられていたブランケットを丁寧に折り畳む。
「帰る前に温かい飲み物でも飲んで、もう少し落ち着いてから帰った方がいいよ。こっち来られるかな?」
女性店員に手を引かれて立ち上がる。足元がくらっとしたが歩けないほどではない。
加納が有紗のコートと荷物を持って後ろをついてくる。
「まだ営業中だから騒がしくてごめんね。ここに座ってて。加納くんも一緒にいてあげてねー」
カフェのバックヤードに連れて来られた有紗は困惑の表情で加納を見上げた。
「私がこんな所にいていいんでしょうか……」
『麻生《あそう》さんが言うならいいんじゃねぇの? 店長も他のスタッフもみんな事情はわかってるし。座ってろ』
麻生とはさっきの女性店員のことだ。エプロンの名札にアソウの名札があった。
有紗と加納はバックヤードの隅のスツールに腰掛けた。
『あんたと喧嘩してたキャバ嬢みたいな女……』
「美咲のことですか?」
『ああ。同じ学校だった奴?』
「去年までは……。あの子は退学したので」
『へぇ。聖蘭学園ってお嬢様ばっかり通ってるイメージだったけど、あんなケバい女もいるんだな』
美咲を酷評する加納に有紗は何も言えなかった。今日会った美咲はまるで去年の自分を見ているようで、加納からすれば去年までの有紗も美咲と同類に見られてしまうかもしれない。
話が途切れたタイミングで麻生が湯気の立つマグカップを運んできた。
「はい、ミントティー。すっきりするよ」
「いただきます」
ミントの爽やかな香りを嗅ぐだけで気分がすっきりする。
「美味しい……」
「良かった。ゆっくりしていてね」
麻生はまた厨房に戻る。ミントティーは有紗のためにわざわざ作ってくれたようだ。
「あ、お茶のお金払わないと……」
『サービスだからいい。麻生さんと店長の気持ちだ。有り難く受け取っておけよ』
店で倒れたあげく、ミントティーをタダで提供してもらい申し訳ない気持ちになる。でも有紗を心配してしてくれたことだ。
善意を無駄にしてはいけない。
加納も麻生も、たまにここにやって来て様子を見て声をかけてくれるスタッフ達も、興味本位に有紗に事情を尋ねたりしなかった。
美咲の話し声は店中に響いていた。加納以外のスタッフ達も有紗のせいで人が死んだと美咲が言っていた言葉を耳にしているだろう。
「はい。ご迷惑おかけしました」
ハンカチで涙を拭った有紗はかけられていたブランケットを丁寧に折り畳む。
「帰る前に温かい飲み物でも飲んで、もう少し落ち着いてから帰った方がいいよ。こっち来られるかな?」
女性店員に手を引かれて立ち上がる。足元がくらっとしたが歩けないほどではない。
加納が有紗のコートと荷物を持って後ろをついてくる。
「まだ営業中だから騒がしくてごめんね。ここに座ってて。加納くんも一緒にいてあげてねー」
カフェのバックヤードに連れて来られた有紗は困惑の表情で加納を見上げた。
「私がこんな所にいていいんでしょうか……」
『麻生《あそう》さんが言うならいいんじゃねぇの? 店長も他のスタッフもみんな事情はわかってるし。座ってろ』
麻生とはさっきの女性店員のことだ。エプロンの名札にアソウの名札があった。
有紗と加納はバックヤードの隅のスツールに腰掛けた。
『あんたと喧嘩してたキャバ嬢みたいな女……』
「美咲のことですか?」
『ああ。同じ学校だった奴?』
「去年までは……。あの子は退学したので」
『へぇ。聖蘭学園ってお嬢様ばっかり通ってるイメージだったけど、あんなケバい女もいるんだな』
美咲を酷評する加納に有紗は何も言えなかった。今日会った美咲はまるで去年の自分を見ているようで、加納からすれば去年までの有紗も美咲と同類に見られてしまうかもしれない。
話が途切れたタイミングで麻生が湯気の立つマグカップを運んできた。
「はい、ミントティー。すっきりするよ」
「いただきます」
ミントの爽やかな香りを嗅ぐだけで気分がすっきりする。
「美味しい……」
「良かった。ゆっくりしていてね」
麻生はまた厨房に戻る。ミントティーは有紗のためにわざわざ作ってくれたようだ。
「あ、お茶のお金払わないと……」
『サービスだからいい。麻生さんと店長の気持ちだ。有り難く受け取っておけよ』
店で倒れたあげく、ミントティーをタダで提供してもらい申し訳ない気持ちになる。でも有紗を心配してしてくれたことだ。
善意を無駄にしてはいけない。
加納も麻生も、たまにここにやって来て様子を見て声をかけてくれるスタッフ達も、興味本位に有紗に事情を尋ねたりしなかった。
美咲の話し声は店中に響いていた。加納以外のスタッフ達も有紗のせいで人が死んだと美咲が言っていた言葉を耳にしているだろう。