早河シリーズ短編集【masquerade】
5月16日(Wed)
東京都葛飾区、東京拘置所。ここには裁判で刑が確定していない刑事被告人、死刑囚、懲役受刑者……凶悪犯罪を犯した犯罪者達が収容されている。
上野恭一郎は拘置所の面会室で相手を待った。彼がこれから面会する人物はここに収容される犯罪者の中で最も恐れられ、警察や政府からも要注意指定を受けている男だ。
職員に連れられて面会室に入った男は上野を一瞥して微笑した。
『これはこれは。久しぶりの来客が誰かと思えば上野警部ではないですか』
透明なプラスチック板で仕切られた部屋の向こう側で、貴嶋佑聖は相変わらずのニヒルな笑顔で上野の訪問を歓迎する。
犯罪組織カオスのキング、貴嶋佑聖。日本の犯罪史上でこの男ほど、犯罪界の帝王と呼ぶに相応しい人間はいない。
ヤクザやマフィアをも凌駕しその手中に収め、長きに渡り裏社会のトップに君臨していた。
3年前に逮捕された後はこの東京拘置所で彼は時を過ごしている。貴嶋の逮捕と共に、日本最大の犯罪組織は壊滅したと思われていた。
しかし昨年のジャーナリスト殺人事件(※)から、上野の疑念は膨らみ続けている。
(※【Guilty secret】の事件)
貴嶋は椅子に深く腰掛け、リラックスした姿勢で上野と向き合った。
『わざわざ貴方がお越しになるとは、何か緊急の要件でも?』
『先日、美月ちゃんが職場の同僚の男に拉致された』
『美月を拉致するとは命知らずな人間だ。美月は無事ですか?』
『冷酷非道と悪名高いお前も、人の心配をするんだな』
貴嶋に話の主導権を握られないよう、上野はわざとゆったり構えて相手の表情を観察した。貴嶋はふっと息を漏らして失笑する。
『私が心配をするのは美月だからです。他の誰が犯罪被害に遭おうと私の知ったことではないが、美月は特別ですよ』
『よほどあの子を気に入っているようだな』
『美月は面白い子ですからね。貴方が余裕な態度でここを訪れていることから察するに、美月は無事だと考えてよろしいですね?』
今度は貴嶋が上野を観察するようにじっと見据えた。
犯罪界の帝王である貴嶋が、ただならぬ執着を持つ存在が美月だ。彼は何故そこまで美月に執着するのか。
陳腐な表現をすれば、貴嶋が美月に恋心を抱いているとも解釈できる。
『美月ちゃんは無事だ。犯人も逮捕した』
『美月を拉致した愚か者の居場所を教えていただければ、私が殺しに行きますよ』
『その必要はない。犯人は法によって裁かれる』
『残念だな。どうやって痛め付けて殺そうか考えていたのに』
貴嶋ならば本気で美月を拉致監禁した池田を殺しかねない。貴嶋にとって人殺しは呼吸と同じ、特別なことではないからだ。
東京都葛飾区、東京拘置所。ここには裁判で刑が確定していない刑事被告人、死刑囚、懲役受刑者……凶悪犯罪を犯した犯罪者達が収容されている。
上野恭一郎は拘置所の面会室で相手を待った。彼がこれから面会する人物はここに収容される犯罪者の中で最も恐れられ、警察や政府からも要注意指定を受けている男だ。
職員に連れられて面会室に入った男は上野を一瞥して微笑した。
『これはこれは。久しぶりの来客が誰かと思えば上野警部ではないですか』
透明なプラスチック板で仕切られた部屋の向こう側で、貴嶋佑聖は相変わらずのニヒルな笑顔で上野の訪問を歓迎する。
犯罪組織カオスのキング、貴嶋佑聖。日本の犯罪史上でこの男ほど、犯罪界の帝王と呼ぶに相応しい人間はいない。
ヤクザやマフィアをも凌駕しその手中に収め、長きに渡り裏社会のトップに君臨していた。
3年前に逮捕された後はこの東京拘置所で彼は時を過ごしている。貴嶋の逮捕と共に、日本最大の犯罪組織は壊滅したと思われていた。
しかし昨年のジャーナリスト殺人事件(※)から、上野の疑念は膨らみ続けている。
(※【Guilty secret】の事件)
貴嶋は椅子に深く腰掛け、リラックスした姿勢で上野と向き合った。
『わざわざ貴方がお越しになるとは、何か緊急の要件でも?』
『先日、美月ちゃんが職場の同僚の男に拉致された』
『美月を拉致するとは命知らずな人間だ。美月は無事ですか?』
『冷酷非道と悪名高いお前も、人の心配をするんだな』
貴嶋に話の主導権を握られないよう、上野はわざとゆったり構えて相手の表情を観察した。貴嶋はふっと息を漏らして失笑する。
『私が心配をするのは美月だからです。他の誰が犯罪被害に遭おうと私の知ったことではないが、美月は特別ですよ』
『よほどあの子を気に入っているようだな』
『美月は面白い子ですからね。貴方が余裕な態度でここを訪れていることから察するに、美月は無事だと考えてよろしいですね?』
今度は貴嶋が上野を観察するようにじっと見据えた。
犯罪界の帝王である貴嶋が、ただならぬ執着を持つ存在が美月だ。彼は何故そこまで美月に執着するのか。
陳腐な表現をすれば、貴嶋が美月に恋心を抱いているとも解釈できる。
『美月ちゃんは無事だ。犯人も逮捕した』
『美月を拉致した愚か者の居場所を教えていただければ、私が殺しに行きますよ』
『その必要はない。犯人は法によって裁かれる』
『残念だな。どうやって痛め付けて殺そうか考えていたのに』
貴嶋ならば本気で美月を拉致監禁した池田を殺しかねない。貴嶋にとって人殺しは呼吸と同じ、特別なことではないからだ。