早河シリーズ短編集【masquerade】
『体調は?』
「頭痛が少し……」
泉はこめかみを押さえる。今の説明で余計に頭が痛くなった。
『コーヒーくらいしか出せないけど飲める?』
「いただきます」
『こたつのスイッチ入れたから、入って待ってて』
渡辺が隣のキッチンに消え、彼に言われるがまま泉はこたつに両脚を入れた。電源を入れたばかりで完全に温まってはいないが、冷えた脚がこたつの熱で温まってくる。
ワンルームの部屋には男性特有の殺風景さが漂っていた。元カレのダイキは、好きなロックバンドのポスターやCDを部屋に飾っていたが、そういった類いの装飾もない。
(バカだなぁ。まだダイキのこと思い出しちゃう。あんな浮気者のことなんか早く忘れたいのに)
キッチンから香るコーヒーの香りと共に渡辺がマグカップを二つ運んで来た。
『砂糖とミルクは?』
「ブラックしか飲まないので……」
『そう。どうぞ』
「ありがとうございます」
砂糖とミルクのないブラックコーヒーを喉に通す。熱いコーヒーが全身に染み渡り、二日酔いの気持ち悪さも軽減される。
『昨日のことどれくらい覚えてる?』
「飲み過ぎて気持ち悪くなって、トイレに行ったまでは覚えています。そこからの記憶が曖昧で……。私、酔っぱらって先生に失礼なこと言ったりしていませんよね?」
『元カレの愚痴を言ったついでに、俺が女に囲まれてヘラヘラしてるみたいなことは言ってた』
泉はいたたまれなくなって青ざめた顔を両手で覆った。
「申し訳ありません。失礼なことを……」
『別にそれはいいんだけど。ダイキって言うのが小野田さんの元カレ?』
「えっ! あ、そうです。元カレの名前まで口走っていたんですね……」
益々いたたまれない。3年も付き合っていれば、ダイキが生活の一部になっているのも仕方のないことではある。
でも自分だけがきっとダイキとの3年間を引きずっていると思うと馬鹿馬鹿しくて、悲しくて、悔しい。
『もうひとつ、どうして俺が小野田さんを連れ帰ったかについても説明する必要がある。君は男達に狙われていたんだ』
「私が?」
『忘年会に参加した数人の男子学生が君をホテルにでも連れ込む計画を企てていたらしい。店員の女性が機転を利かせて、君が男子学生達に見つかる前に俺に連れて帰らせたんだ』
渡辺の話が事実なら想像するだけで鳥肌が立つ。渡辺と店員のおかげで難を逃れたが、もしかすると複数の男の餌食にされて、今頃は24年間で最も最悪な朝を迎えていたかもしれない。
「助けてくれた店員さんにお礼しないと……」
『そうだな。近々お礼に行った方がいい。これからは自力で帰れなくなるまで飲まないように。大人としての最低限のマナーだ』
「気を付けます。……私、他にも何かまずいこと言ってませんでしたか……?」
『初めての相手にはマグロだから飽きたと言われて振られただとか、上に乗った時の動きが上手くできないだとか、主に下ネタ系を恵比寿のど真ん中で叫んでいたぞ。あとは酒に酔うと経験人数を暴露する癖は直した方がいい。24年間で二人だろ?』
穴があったら入りたい。このこたつにでも今すぐ潜り込んで渡辺の視線から解放されたかった。
恥ずかしい暴露をしても淡々としてくれている渡辺の反応がむしろ有り難い。
「頭痛が少し……」
泉はこめかみを押さえる。今の説明で余計に頭が痛くなった。
『コーヒーくらいしか出せないけど飲める?』
「いただきます」
『こたつのスイッチ入れたから、入って待ってて』
渡辺が隣のキッチンに消え、彼に言われるがまま泉はこたつに両脚を入れた。電源を入れたばかりで完全に温まってはいないが、冷えた脚がこたつの熱で温まってくる。
ワンルームの部屋には男性特有の殺風景さが漂っていた。元カレのダイキは、好きなロックバンドのポスターやCDを部屋に飾っていたが、そういった類いの装飾もない。
(バカだなぁ。まだダイキのこと思い出しちゃう。あんな浮気者のことなんか早く忘れたいのに)
キッチンから香るコーヒーの香りと共に渡辺がマグカップを二つ運んで来た。
『砂糖とミルクは?』
「ブラックしか飲まないので……」
『そう。どうぞ』
「ありがとうございます」
砂糖とミルクのないブラックコーヒーを喉に通す。熱いコーヒーが全身に染み渡り、二日酔いの気持ち悪さも軽減される。
『昨日のことどれくらい覚えてる?』
「飲み過ぎて気持ち悪くなって、トイレに行ったまでは覚えています。そこからの記憶が曖昧で……。私、酔っぱらって先生に失礼なこと言ったりしていませんよね?」
『元カレの愚痴を言ったついでに、俺が女に囲まれてヘラヘラしてるみたいなことは言ってた』
泉はいたたまれなくなって青ざめた顔を両手で覆った。
「申し訳ありません。失礼なことを……」
『別にそれはいいんだけど。ダイキって言うのが小野田さんの元カレ?』
「えっ! あ、そうです。元カレの名前まで口走っていたんですね……」
益々いたたまれない。3年も付き合っていれば、ダイキが生活の一部になっているのも仕方のないことではある。
でも自分だけがきっとダイキとの3年間を引きずっていると思うと馬鹿馬鹿しくて、悲しくて、悔しい。
『もうひとつ、どうして俺が小野田さんを連れ帰ったかについても説明する必要がある。君は男達に狙われていたんだ』
「私が?」
『忘年会に参加した数人の男子学生が君をホテルにでも連れ込む計画を企てていたらしい。店員の女性が機転を利かせて、君が男子学生達に見つかる前に俺に連れて帰らせたんだ』
渡辺の話が事実なら想像するだけで鳥肌が立つ。渡辺と店員のおかげで難を逃れたが、もしかすると複数の男の餌食にされて、今頃は24年間で最も最悪な朝を迎えていたかもしれない。
「助けてくれた店員さんにお礼しないと……」
『そうだな。近々お礼に行った方がいい。これからは自力で帰れなくなるまで飲まないように。大人としての最低限のマナーだ』
「気を付けます。……私、他にも何かまずいこと言ってませんでしたか……?」
『初めての相手にはマグロだから飽きたと言われて振られただとか、上に乗った時の動きが上手くできないだとか、主に下ネタ系を恵比寿のど真ん中で叫んでいたぞ。あとは酒に酔うと経験人数を暴露する癖は直した方がいい。24年間で二人だろ?』
穴があったら入りたい。このこたつにでも今すぐ潜り込んで渡辺の視線から解放されたかった。
恥ずかしい暴露をしても淡々としてくれている渡辺の反応がむしろ有り難い。