早河シリーズ短編集【masquerade】
12月28日(Sat)
大学は冬季休暇を迎え、いつもは学生達で賑わう構内も静けさに包まれていた。
学生の面倒を見なくてもいい休暇期間こそ、講師陣は自分の研究に没頭できる。渡辺は森本教授の研究の手伝いで、冬季休暇に入った土曜日も朝から大学に顔を出していた。
人使いの荒い教授にこきを使われて慌ただしく1日が過ぎる。年の瀬の感覚など全くなく、気付けば28日の空は茜色に染まっていた。
研究室でデータ整理の打ち込み作業中に扉がノックされる。パソコン画面から目を離さずに返事をすると、扉から高橋鈴華が現れた。
『休みなのにどうした?』
「渡辺先生にお話があって来ました」
『また研究の相談?』
「いいえ、プライベートな話です」
内心うんざりしつつ、彼女の話し相手をしてやる。鈴華は手にしていたスマートフォンの画面を渡辺に向けた。
「これを見てください。ここに写っているのは渡辺先生ですよね」
パステルピンクのネイルが塗られた鈴華の指が画面をタップする。忘年会の帰りに小野田泉を背負う渡辺の写真が拡大表示された。
渡辺はスマホの写真を一瞥して、再びパソコンのキーを打つ。
『何が狙い?』
「ひどぉい。私は先生が欲しいだけです」
鈴華はデスクの内側に回り込んで、後ろから渡辺に抱き付いた。鈴華の頬が渡辺の顔の真横に触れる。
「こうやってこの子おんぶしたの? どこに連れて行ったの?」
『家に送った』
「本当? 二人でタクシーに乗ったところも見ていたんですよ。先生におんぶされてるこの子が誰かもわかってるの。建築科修士2年の小野田泉。建築科ではわりと人気があるみたい」
彼女がつけているフルーツっぽい香水の甘い匂いが鼻について不快だった。
『君は俺に何を期待してる? 俺は酔い潰れた学生を家に送っただけだ』
「事実はそうでも他の人はそうは思わないかもしれません」
鈴華のスマホが渡辺の顔の前にちらついた。
「写真を教授達に見せればどう思われるでしょう? 小野田さんと先生が何もなかったと証言しても、それを証明できる証拠はない。先生と小野田さんは教授達からやましい関係だと疑われることになります」
『だからその写真を教授達に見せられたくなければ……ってことか』
「さすが渡辺先生。話がわかりますね。私を先生の恋人にしてくれるなら、この写真を教授達には見せません。約束します」
渡辺の背中を離れた鈴華は隣のデスクに腰掛けた。今日も鈴華は脚を露出したミニスカートを履いている。彼女の服装も計画的なものだろう。
『小野田泉と俺がやましい関係だと疑われそうな写真を撮って脅迫しておきながら、自分は俺の女になってもいいわけ?』
「私が先生の正式な恋人なら問題ないですよ。もし渡辺先生と小野田さんが正式な恋人同士ならこの写真だって問題のあることじゃない。でも違いますよね?』
主張が支離滅裂で付き合っていられない。受け答えも面倒だった。渡辺は大きく溜息をつき、パソコンのキーから指を離す。
大学は冬季休暇を迎え、いつもは学生達で賑わう構内も静けさに包まれていた。
学生の面倒を見なくてもいい休暇期間こそ、講師陣は自分の研究に没頭できる。渡辺は森本教授の研究の手伝いで、冬季休暇に入った土曜日も朝から大学に顔を出していた。
人使いの荒い教授にこきを使われて慌ただしく1日が過ぎる。年の瀬の感覚など全くなく、気付けば28日の空は茜色に染まっていた。
研究室でデータ整理の打ち込み作業中に扉がノックされる。パソコン画面から目を離さずに返事をすると、扉から高橋鈴華が現れた。
『休みなのにどうした?』
「渡辺先生にお話があって来ました」
『また研究の相談?』
「いいえ、プライベートな話です」
内心うんざりしつつ、彼女の話し相手をしてやる。鈴華は手にしていたスマートフォンの画面を渡辺に向けた。
「これを見てください。ここに写っているのは渡辺先生ですよね」
パステルピンクのネイルが塗られた鈴華の指が画面をタップする。忘年会の帰りに小野田泉を背負う渡辺の写真が拡大表示された。
渡辺はスマホの写真を一瞥して、再びパソコンのキーを打つ。
『何が狙い?』
「ひどぉい。私は先生が欲しいだけです」
鈴華はデスクの内側に回り込んで、後ろから渡辺に抱き付いた。鈴華の頬が渡辺の顔の真横に触れる。
「こうやってこの子おんぶしたの? どこに連れて行ったの?」
『家に送った』
「本当? 二人でタクシーに乗ったところも見ていたんですよ。先生におんぶされてるこの子が誰かもわかってるの。建築科修士2年の小野田泉。建築科ではわりと人気があるみたい」
彼女がつけているフルーツっぽい香水の甘い匂いが鼻について不快だった。
『君は俺に何を期待してる? 俺は酔い潰れた学生を家に送っただけだ』
「事実はそうでも他の人はそうは思わないかもしれません」
鈴華のスマホが渡辺の顔の前にちらついた。
「写真を教授達に見せればどう思われるでしょう? 小野田さんと先生が何もなかったと証言しても、それを証明できる証拠はない。先生と小野田さんは教授達からやましい関係だと疑われることになります」
『だからその写真を教授達に見せられたくなければ……ってことか』
「さすが渡辺先生。話がわかりますね。私を先生の恋人にしてくれるなら、この写真を教授達には見せません。約束します」
渡辺の背中を離れた鈴華は隣のデスクに腰掛けた。今日も鈴華は脚を露出したミニスカートを履いている。彼女の服装も計画的なものだろう。
『小野田泉と俺がやましい関係だと疑われそうな写真を撮って脅迫しておきながら、自分は俺の女になってもいいわけ?』
「私が先生の正式な恋人なら問題ないですよ。もし渡辺先生と小野田さんが正式な恋人同士ならこの写真だって問題のあることじゃない。でも違いますよね?』
主張が支離滅裂で付き合っていられない。受け答えも面倒だった。渡辺は大きく溜息をつき、パソコンのキーから指を離す。