早河シリーズ短編集【masquerade】
『君から俺達がどう見えていたかは知らないが、あえて訂正するならあれは酔って自力で歩けない彼女を店員に頼まれて連れ帰っただけだ。それと、小野田泉は男子学生達に狙われていた。あのままだとうちの学生が集団強姦事件を起こしていたかもしれない』
「じゃあ、先生は小野田さんを助けて……?」
『当たり前。誰が好き好んでクソ寒い中で酔い潰れた女を背負いたいと思う? 後をつけていたなら話し声も聞こえていただろうけど、あの女は大声で下ネタを連発していただろ。勘弁して欲しい』
「確かに……あれには私もドン引きでした」
鈴華が少しだけ笑った。一歩ずつ渡辺に歩み寄る彼女はスマホを渡辺に渡す。
「写真は先生が消してください。本当は最初から教授にバラすつもりはなかったんです。先生が自分の立場を守るために私のものになってくれたら……よかったのになぁ」
渡辺は鈴華のスマホの画像フォルダから自分と泉が写る写真を複数枚選択して削除した。
『データはこれだけ?』
「スマホに入っているのが全部です』
『仮にも情報工学科の学生がデータのコピーをとっていないとは信じられないが』
「本当です。本当に写真はそこに入っていたものだけです」
泣いた後の赤い目をして訴える鈴華をこれ以上追及はしない。渡辺はスマホを鈴華に返して、電気ケトルで沸かした湯でコーヒーを淹れた。
『それにしても盗撮と尾行は感心しないやり方だな』
鈴華の幼稚な手段と動機にはほとほと呆れる。コーヒーを淹れたカップを鈴華に渡した。
『これ飲んで落ち着いてから帰りなさい』
「先生ってずるいですよね。そうやって優しくされたら諦められなくなるのに……」
『君に泣きながらここを出ていかれる方が疑惑の目を向けられて俺が困るんだよ』
「ふふっ。ポスドクが学生に無理やりキス事件! なんて言われたら困っちゃいますよね」
泣き腫らした目元を細めて鈴華は微笑する。彼女の表情は何かを吹っ切ったような晴れやかな顔だった。
鈴華はコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れて渡辺の隣の席に座った。渡辺もコーヒーを飲みながら中断していた打ち込み作業を再開する。
「先生は今まで何人の女と付き合って来たんですか?」
『そんなことが聞きたいのか?』
「だってキス慣れてるもん。私が経験してきた人の中で断トツの上手さです。場数をこなしていないとアレはできませんよ」
猫舌の鈴華は熱いコーヒーに息を吹き掛けていた。熱い飲み物は飲めない、コーヒーにはミルクと砂糖をたっぷり入れていた鈴華は、熱いコーヒーをブラックで飲んでいた泉とは対照的だった。
『君が想像するほど経験豊富でもない。29年生きていればそれなりのことをしてきただけだ』
「それなり……ですか。先生は高校時代に杉澤のトップ4と言われていたって聞きましたよ。先生が通われていた杉澤学院高校には先生の他にも三人のイケメンがいて、四人はアイドル並みに大人気だったって」
『またずいぶん古いネタを……』
高校時代なんて10年以上も前のことだ。一体どこからそんな情報が流れるのだろう。
「じゃあ、先生は小野田さんを助けて……?」
『当たり前。誰が好き好んでクソ寒い中で酔い潰れた女を背負いたいと思う? 後をつけていたなら話し声も聞こえていただろうけど、あの女は大声で下ネタを連発していただろ。勘弁して欲しい』
「確かに……あれには私もドン引きでした」
鈴華が少しだけ笑った。一歩ずつ渡辺に歩み寄る彼女はスマホを渡辺に渡す。
「写真は先生が消してください。本当は最初から教授にバラすつもりはなかったんです。先生が自分の立場を守るために私のものになってくれたら……よかったのになぁ」
渡辺は鈴華のスマホの画像フォルダから自分と泉が写る写真を複数枚選択して削除した。
『データはこれだけ?』
「スマホに入っているのが全部です』
『仮にも情報工学科の学生がデータのコピーをとっていないとは信じられないが』
「本当です。本当に写真はそこに入っていたものだけです」
泣いた後の赤い目をして訴える鈴華をこれ以上追及はしない。渡辺はスマホを鈴華に返して、電気ケトルで沸かした湯でコーヒーを淹れた。
『それにしても盗撮と尾行は感心しないやり方だな』
鈴華の幼稚な手段と動機にはほとほと呆れる。コーヒーを淹れたカップを鈴華に渡した。
『これ飲んで落ち着いてから帰りなさい』
「先生ってずるいですよね。そうやって優しくされたら諦められなくなるのに……」
『君に泣きながらここを出ていかれる方が疑惑の目を向けられて俺が困るんだよ』
「ふふっ。ポスドクが学生に無理やりキス事件! なんて言われたら困っちゃいますよね」
泣き腫らした目元を細めて鈴華は微笑する。彼女の表情は何かを吹っ切ったような晴れやかな顔だった。
鈴華はコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れて渡辺の隣の席に座った。渡辺もコーヒーを飲みながら中断していた打ち込み作業を再開する。
「先生は今まで何人の女と付き合って来たんですか?」
『そんなことが聞きたいのか?』
「だってキス慣れてるもん。私が経験してきた人の中で断トツの上手さです。場数をこなしていないとアレはできませんよ」
猫舌の鈴華は熱いコーヒーに息を吹き掛けていた。熱い飲み物は飲めない、コーヒーにはミルクと砂糖をたっぷり入れていた鈴華は、熱いコーヒーをブラックで飲んでいた泉とは対照的だった。
『君が想像するほど経験豊富でもない。29年生きていればそれなりのことをしてきただけだ』
「それなり……ですか。先生は高校時代に杉澤のトップ4と言われていたって聞きましたよ。先生が通われていた杉澤学院高校には先生の他にも三人のイケメンがいて、四人はアイドル並みに大人気だったって」
『またずいぶん古いネタを……』
高校時代なんて10年以上も前のことだ。一体どこからそんな情報が流れるのだろう。