早河シリーズ短編集【masquerade】
『俺が情報屋辞めるって言ったらどうする?』

 みたらし団子の上から二番目の団子まで食べた彼女は咀嚼しながら矢野に顔を向けた。

「辞めるの?」
『まだ考え中』
「……なんで? 情報屋辞めたくなったの?」

 内心の動揺を悟られまいと、真紀はみたらし団子を食べることに専念した。それでも絞り出した声が震えている。

『真紀と結婚するならその方がいいんじゃないかと思って。情報屋辞めて堅気の仕事一本にすればお母さん達に俺の仕事のことでコソコソしなくてもいいだろ? それに今のまま情報屋を続けていれば、またいつ俺が狙われるかわからない。結婚して子どもが生まれても、真紀や子どもをいざと言う時に守ってやれなくなるのは嫌なんだ』

食べ終えた団子の串をトレーに戻し、ペットボトルのお茶を一気に飲んだ彼女は天を仰いだ。木漏れ日の揺れる公園に聞こえる賑やかな子どもの声。

真紀と矢野の目の前を男の子二人が駆けていった。

「そもそも一輝はどうして情報屋になったの?」
『話したことなかったっけ?』
「聞いてない。表の仕事が武田大臣の事務所の事務員だってことも早河さんから聞いたのよ。私には何も話してくれないんだから」
『ごめんごめん。えーっと……どこから話そうかな』

 矢野は再びお好み焼きに手をつける。半分ほど残ったお好み焼きを真紀にも少し食べさせて、パックの中身は空になった。

『高校の時に両親が事故って死んで、そこからは武田のじいさんの家に預けられたんだ』
「うん、それは知ってる。早河さんと出会ったのもその頃なんだよね」
『そうそう。早河さんと初めて出会った場所は武田のじいさん家の庭だったな』

彼は遠い過去の話を語り始めた──。



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