早河シリーズ短編集【masquerade】
『警察学校行ってるんだ。煙草の匂いさせて寮に戻れば大変なことになる』
『へぇ。刑事になるんですね』
『無事に卒業できたらな』
男の二の腕や腰回りが鍛えられているのも警察学校での訓練の賜物かもしれない。
『お前、武田議員の甥っ子だろ?』
『俺のこと知ってんの?』
『大体の話は聞いてる。俺もお前と同じだからさ。俺も親が死んでるんだ』
足元に置いたスーパーの袋から男はもうひとつペットボトルを出して蓋を開けた。
『母親は俺が三つの時に、父親も2年前に死んだ』
『事故……とか病気で?』
人の死の原因についてその時の矢野には事故や病気以外の原因は思い浮かばなかった。だから次に男から聞かされた話には、しばらく理解が追い付かなかった。
『母親は事故死って聞いてるけど父親は殺された』
『殺された……?』
『俺も詳しいことはわかんねぇんだ。親父は元刑事で、刑事だった時に追いかけていたヤクザまがいの奴に殺されたらしい。それが2年前、俺が高2の時。それからは親戚の家に世話になった。お前と同じ』
同じと言われても、男と同じなのは親が死んで親戚の家で居候をしていることだけで、自分とこの男はまるで違う。
男の醸し出す独特の雰囲気は矢野の知るどの人間とも違った。
『その煙草は親父さんの形見だ。大事にとっておけ』
男から返された父親の煙草とライターを握り締めて矢野は頷く。
『親ってあっという間にいなくなっちゃうんだな。別にいなくても困らないって思ってたのに』
矢野の小さな呟きに男は微笑し、矢野の頭を雑な手つきで撫でた。
『そうだな。親なんていてもいなくてもどっちでもいいって思っていても、いざいなくなられると寂しいよな』
またどこかで蝉が泣いている。
両親が死んだと聞かされた時も、葬儀の最中も火葬の後も、矢野は泣かなかった。泣きたくても泣けなかった。
けれど今、やっと涙が流せた。
聞こえる物音は蝉の鳴き声だけ。泣いている矢野に男は言葉をかけることなく、隣で夏の始まりの空を眺めていた。
これが矢野一輝と早河仁の最初の出会いだった。
『へぇ。刑事になるんですね』
『無事に卒業できたらな』
男の二の腕や腰回りが鍛えられているのも警察学校での訓練の賜物かもしれない。
『お前、武田議員の甥っ子だろ?』
『俺のこと知ってんの?』
『大体の話は聞いてる。俺もお前と同じだからさ。俺も親が死んでるんだ』
足元に置いたスーパーの袋から男はもうひとつペットボトルを出して蓋を開けた。
『母親は俺が三つの時に、父親も2年前に死んだ』
『事故……とか病気で?』
人の死の原因についてその時の矢野には事故や病気以外の原因は思い浮かばなかった。だから次に男から聞かされた話には、しばらく理解が追い付かなかった。
『母親は事故死って聞いてるけど父親は殺された』
『殺された……?』
『俺も詳しいことはわかんねぇんだ。親父は元刑事で、刑事だった時に追いかけていたヤクザまがいの奴に殺されたらしい。それが2年前、俺が高2の時。それからは親戚の家に世話になった。お前と同じ』
同じと言われても、男と同じなのは親が死んで親戚の家で居候をしていることだけで、自分とこの男はまるで違う。
男の醸し出す独特の雰囲気は矢野の知るどの人間とも違った。
『その煙草は親父さんの形見だ。大事にとっておけ』
男から返された父親の煙草とライターを握り締めて矢野は頷く。
『親ってあっという間にいなくなっちゃうんだな。別にいなくても困らないって思ってたのに』
矢野の小さな呟きに男は微笑し、矢野の頭を雑な手つきで撫でた。
『そうだな。親なんていてもいなくてもどっちでもいいって思っていても、いざいなくなられると寂しいよな』
またどこかで蝉が泣いている。
両親が死んだと聞かされた時も、葬儀の最中も火葬の後も、矢野は泣かなかった。泣きたくても泣けなかった。
けれど今、やっと涙が流せた。
聞こえる物音は蝉の鳴き声だけ。泣いている矢野に男は言葉をかけることなく、隣で夏の始まりの空を眺めていた。
これが矢野一輝と早河仁の最初の出会いだった。