早河シリーズ短編集【masquerade】
矢野が早河と出会った7月から1ヶ月が過ぎた8月の終わり。自室を出て階下に降りるとキッチンから甘い香りが漂ってきた。
『梨乃、何作ってんの? ケーキ?』
キッチンでは梨乃がオーブンの前で難しい顔をしている。ショートカットのボーイッシュな見た目に反して、梨乃の趣味はお菓子作りだ。
矢野も何度か梨乃が作ったケーキやクッキーを食べたことがある。
「うん。レモンケーキ。初めて作るから上手く出来てるか不安なんだけどね」
『ふーん。レモンケーキって珍しいな。いつもはもっとクリームたっぷりの甘いヤツ作るだろ。誰かにあげるの?』
冷蔵庫から炭酸飲料を出してグラスに注ぐ。壁にもたれて梨乃を観察しているとショートカットから覗く耳が赤くなっていた。
『まさか男? 梨乃にもついに彼氏できたか』
「彼氏……じゃないけど……。早河さんが明日うちに来るでしょ?」
ハツラツとした普段の梨乃ではめったに見られない恥ずかしげな表情に矢野は唖然とした。
早河の父親と武田は学生時代からの友人であり、武田は友人の子どもの早河を自分の息子同然に可愛がっている。
警察学校が休みの日には早河が武田家を訪れて夕食を共にすることもあった。確かに明日は早河が武田家に来る日だ。
『梨乃って早河さんに惚れてたのかよ……』
「もう! 惚れてるとかそんなダイレクトに言わないで。一輝のバカ!」
梨乃の反応はとてもわかりやすい。オーブンの様子を気にしつつ、彼女はダイニングテーブルの椅子に座った。
『いつから好きなんだ?』
「一輝がここに来る前……まだ早河さんが高校生の頃からうちに遊びに来てたの。警察学校入ってからは忙しくてこっちに来てくれることも減っちゃったけど。片想いして2年になる」
『2年って長いな。告白は?』
梨乃が首を横に振る。
「前に告白した時は早河さんには彼女がいたの。だから付き合えないって断られた。今はその人とも別れたみたいで彼女っぽい人はいなさそう」
『それならまた告れば?』
「簡単に言うなバカ一輝」
バカと二度も言われてしまった。女子高生の複雑な乙女心は矢野には不可解なものだ。
「一度振られてるんだから早河さんは私のこと女として見てないんだよ。告白した時も私は妹みたいなものだって言われたし……。でも諦めきれないんだよねぇ……」
大きな溜息をついた梨乃はオーブンの窓から中を見つめていた。
『梨乃、何作ってんの? ケーキ?』
キッチンでは梨乃がオーブンの前で難しい顔をしている。ショートカットのボーイッシュな見た目に反して、梨乃の趣味はお菓子作りだ。
矢野も何度か梨乃が作ったケーキやクッキーを食べたことがある。
「うん。レモンケーキ。初めて作るから上手く出来てるか不安なんだけどね」
『ふーん。レモンケーキって珍しいな。いつもはもっとクリームたっぷりの甘いヤツ作るだろ。誰かにあげるの?』
冷蔵庫から炭酸飲料を出してグラスに注ぐ。壁にもたれて梨乃を観察しているとショートカットから覗く耳が赤くなっていた。
『まさか男? 梨乃にもついに彼氏できたか』
「彼氏……じゃないけど……。早河さんが明日うちに来るでしょ?」
ハツラツとした普段の梨乃ではめったに見られない恥ずかしげな表情に矢野は唖然とした。
早河の父親と武田は学生時代からの友人であり、武田は友人の子どもの早河を自分の息子同然に可愛がっている。
警察学校が休みの日には早河が武田家を訪れて夕食を共にすることもあった。確かに明日は早河が武田家に来る日だ。
『梨乃って早河さんに惚れてたのかよ……』
「もう! 惚れてるとかそんなダイレクトに言わないで。一輝のバカ!」
梨乃の反応はとてもわかりやすい。オーブンの様子を気にしつつ、彼女はダイニングテーブルの椅子に座った。
『いつから好きなんだ?』
「一輝がここに来る前……まだ早河さんが高校生の頃からうちに遊びに来てたの。警察学校入ってからは忙しくてこっちに来てくれることも減っちゃったけど。片想いして2年になる」
『2年って長いな。告白は?』
梨乃が首を横に振る。
「前に告白した時は早河さんには彼女がいたの。だから付き合えないって断られた。今はその人とも別れたみたいで彼女っぽい人はいなさそう」
『それならまた告れば?』
「簡単に言うなバカ一輝」
バカと二度も言われてしまった。女子高生の複雑な乙女心は矢野には不可解なものだ。
「一度振られてるんだから早河さんは私のこと女として見てないんだよ。告白した時も私は妹みたいなものだって言われたし……。でも諦めきれないんだよねぇ……」
大きな溜息をついた梨乃はオーブンの窓から中を見つめていた。