早河シリーズ短編集【masquerade】
 矢野と早河のドリンクがウェイターによって運ばれた時を同じくして、ドレス姿の二人の女がこちらにやって来た。

ひとりはモデル並みの長身に黒のマーメイドラインのドレスを纏い、もうひとりは小柄で華奢、レースのついた桜色のドレスを着ていた。

「ルミです」
「ハルナです」

長身でマーメイドドレスの女がルミ、小柄で桜色のドレスの女はハルナと名乗り、彼女達はサユリと共に席についた。ルミは早河の隣、ハルナが矢野の隣だ。

 ルミと早河は何度か言葉のやりとりを交わしている。驚いたことにそれまで沈黙を守ってきた早河も、ルミと話す時は一様の社交性を発揮していた。

しかし矢野はコーラのグラスで乾杯をしても、ハルナから名前や年齢、自己紹介程度の趣味などを聞かれても、いまだにこの奇妙な集いに慣れず萎縮していた。

 自分よりも何歳か年上のハルナとも高校のクラスメートの女の子と話すようには上手く話せない。可愛らしい雰囲気のハルナと目を合わせるので精一杯だ。

「一輝くんは将来は政治家さんになるの? 武田議員の跡を継ぐとか?」
『えっと……特には決めてない』

まだ高校1年生の矢野にとって将来の道をどうするのか、政治家になるのか、そんな先のことは考えもしなかった。

『一応大学には行っておけって言われてるから大学には行くつもりだけど』
「そっか。私も短期大学だけど行ってたよ。大学は行けるのなら行っておいた方がいいかもね」

ハルナは矢野のつたない喋りにもニコニコと相槌やリアクションを返してくれる。彼女との会話は同級生の女の子と話す感覚とはまた違って新鮮だった。

 代わる代わるやって来る華やかな女達と1時間半ほどお喋りをしてメルシーでの奇妙な集いはお開きとなった。武田はまだ店に残るようで、未成年の矢野と早河はサユリと、最初に席に来たハルナにエントランスまで見送られた。

「また遊びに来てくださいね」
『うん。伯父さんが連れて来てくれたら……』

ハルナに両手を握られて矢野は狼狽える。早河やサユリに助けを求めようとしたが二人は二言三言小声で会話をしていた。

やはり早河にも武田と同じくサユリとは親密な空気感がある。結局サユリには早河との関係をはぐらかされたままだ。

「一輝くんが成人してご来店の際にはぜひハルナをご指名よろしくお願いします」

 ハルナの年齢は21歳と言っていた。顔立ちだけを見れば幼い童顔で、話し方もふんわりしている彼女は実年齢より少し下、高校生の自分と同世代にも見える。

矢野はこれまで席に現れたどのホステスよりも最初に接したハルナが一番話しやすかった。

 手を振るハルナに矢野も手を振り返して迎えの車に早河と乗り込んだ。主の武田不在の帰路では矢野も早河も隣同士ではなく向き合う形でシートにかけた。
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