早河シリーズ短編集【masquerade】
矢野が高校2年に進級した年、1998年4月28日火曜日。矢野が通う都立西堀高校のグラウンドから運動部の部員達の掛け声が聞こえてくる。
『一輝、そろそろ行くぞ。待ち合わせ遅れちまう』
図書室の本棚の前にいた矢野に同級生の高木涼馬が声をかけた。矢野は立ったまま分厚い書物を広げている。
『おお、ちょっと待って』
『何読んでたんだ? 国際政治学? あー……政治の本か』
高木は矢野が棚に戻した本の背表紙のタイトルを読み上げた。
『お前志望を国立の法学部にしたんだってな。やっぱり伯父さんの跡を継ぐの?』
『まだ決めてねぇよ。でも一応その手の知識は頭に入れておこうと思って』
矢野と高木は図書室を出て静かな廊下を歩く。
西堀高校は東京都でも偏差値の高い進学校。近年は同じく都内トップクラスの偏差値を誇る杉澤学院高校と偏差値トップの座を争っている。
この時間帯は運動部以外の生徒は自習室での自主勉強か、帰宅して塾に行っているかのどちらかだ。図書室でも勉強している生徒が大半だった。
『俺も志望校どうすっかなー。この前の模試、文系が結構厳しくて』
『涼馬は文系弱いからなぁ』
校庭の桜も散って新緑の季節に移り変わる。1週間後は両親の一周忌だ。
両親を亡くしてからのこの1年で矢野を取り巻く環境は大きく変わった。
早河の示唆した通り、武田に連れられて政界関係者と顔を合わせた。メルシーに行く機会もたびたびあり、京都のお茶屋で祇園の舞妓と対面もした。
自分は普通の高校生とは違う経験をいくつもしている。その経験をしている時の自分は武田健造議員の甥としての顔を作っていた。
(だけど学校に居るときはこれまでと変わらず矢野一輝なんだよな)
学校で高木や他の友達と過ごしている時、授業を受けている時、授業中たまに居眠りをしている時、体育の授業で野球やバスケに熱中している時、その時の彼は本来の矢野一輝としての顔をしている。
二つの顔の使い分けが最近ようやく上手く出来てきたと思う。
『千賀《せんが》が取り付けてきたゴールデンウィークの若葉高校との合コン、一輝どうする?』
『5月3日だっけ。別に予定ないし行くつもり』
『若葉高校って可愛い子沢山いるって有名だから、もしかしたらもしかするかも? これで彼女できたら童貞卒業できるかも……?』
『涼馬ぁー。顔ニヤけてるぞ』
『一輝だって早く卒業したいくせに』
男子高校生ならではの話題を交わして二人は昇降口を出た。
『一輝、そろそろ行くぞ。待ち合わせ遅れちまう』
図書室の本棚の前にいた矢野に同級生の高木涼馬が声をかけた。矢野は立ったまま分厚い書物を広げている。
『おお、ちょっと待って』
『何読んでたんだ? 国際政治学? あー……政治の本か』
高木は矢野が棚に戻した本の背表紙のタイトルを読み上げた。
『お前志望を国立の法学部にしたんだってな。やっぱり伯父さんの跡を継ぐの?』
『まだ決めてねぇよ。でも一応その手の知識は頭に入れておこうと思って』
矢野と高木は図書室を出て静かな廊下を歩く。
西堀高校は東京都でも偏差値の高い進学校。近年は同じく都内トップクラスの偏差値を誇る杉澤学院高校と偏差値トップの座を争っている。
この時間帯は運動部以外の生徒は自習室での自主勉強か、帰宅して塾に行っているかのどちらかだ。図書室でも勉強している生徒が大半だった。
『俺も志望校どうすっかなー。この前の模試、文系が結構厳しくて』
『涼馬は文系弱いからなぁ』
校庭の桜も散って新緑の季節に移り変わる。1週間後は両親の一周忌だ。
両親を亡くしてからのこの1年で矢野を取り巻く環境は大きく変わった。
早河の示唆した通り、武田に連れられて政界関係者と顔を合わせた。メルシーに行く機会もたびたびあり、京都のお茶屋で祇園の舞妓と対面もした。
自分は普通の高校生とは違う経験をいくつもしている。その経験をしている時の自分は武田健造議員の甥としての顔を作っていた。
(だけど学校に居るときはこれまでと変わらず矢野一輝なんだよな)
学校で高木や他の友達と過ごしている時、授業を受けている時、授業中たまに居眠りをしている時、体育の授業で野球やバスケに熱中している時、その時の彼は本来の矢野一輝としての顔をしている。
二つの顔の使い分けが最近ようやく上手く出来てきたと思う。
『千賀《せんが》が取り付けてきたゴールデンウィークの若葉高校との合コン、一輝どうする?』
『5月3日だっけ。別に予定ないし行くつもり』
『若葉高校って可愛い子沢山いるって有名だから、もしかしたらもしかするかも? これで彼女できたら童貞卒業できるかも……?』
『涼馬ぁー。顔ニヤけてるぞ』
『一輝だって早く卒業したいくせに』
男子高校生ならではの話題を交わして二人は昇降口を出た。