早河シリーズ短編集【masquerade】
『あれ? パトカー?』
校門を出た先にパトカーが一台停まっていた。車内に人はいない。
『学校の前ってことは警察がうちの学校に何か用なのか?』
『うちの生徒が何かやらかしたって話は聞いてないけどな……』
不良高校ならともかく、進学校の西堀高校に警察が訪ねてくる事態はまず起こらない。
『ま、俺達には関係ねぇよな。それより急ごうぜ。圭佑《けいすけ》達が待ってる』
今日はこの後に中学時代の仲間と集まる約束がある。高木は腕時計をちらちら見て時間を気にしていた。
学校に警察が来ていても自分には関係がない。何かあれば、そのうちどこからか噂が聞こえてくるだろう。
矢野はしばし無人のパトカーを眺めていたが、高木に促されてパトカーに背を向けた。
久々に会った中学時代の仲間とカラオケやバッティングセンターでの打ち合いを楽しみ、ファミレスで夕食を食べて解散した。
矢野は“高校生の矢野一輝”としての今を満喫していた。
『やっぱり勉強ばっかじゃなく高校生は遊ばないとなーっ! 歌ってボール打ってスッキリした』
帰り道も一緒の高木が鼻歌を歌ってスキップしている。矢野はブレザーのポケットに両手を入れて高木の後ろをだらだらと歩いた。
春の夜風が気持ちいい。明日は祝日で学校は休み。帰りが少しくらい遅くなっても武田家の人間は必要以上に干渉しない。
せいぜい従姉の梨乃が小言を呟く程度だ。
梨乃も大学生になり、サークル活動やバイトに忙しく家にいる時間も減った。最近は梨乃とは朝食の時間にしか顔を合わせていない。
議員の娘である梨乃は金銭的に不自由はしていない。彼女がアルバイトをしなければいけない理由はどこにもないのに、社会勉強の名目でバイトを始めたらしい。
バイト先が小学生を対象とした英会話塾なのは実に梨乃らしいが、バイトをすることでわざと家を空けて、武田家を訪れる片想いの相手の早河と会うのを避けているようにも思えてしまった。
(早河さんは相変わらずクールで何考えてるのかわかんないし。でもそこがあの人の格好いいとこなんだけどさ)
高架下のトンネルが見えてきた。あのトンネルを抜けると駅が近い。街灯の明かりだけの夜道を高木とふざけあって歩く。
『一輝、パス』
『よっしゃ、シュートォー!』
道端に空のペットボトルが捨ててあり、そのペットボトルをサッカーのように蹴りあって二人は遊んでいた。
高架を電車が通過する音に紛れて聞こえてきた音に、矢野と高木は動きを止めた。
『今……何か聞こえた?』
『俺も聞こえた。悲鳴みたいな……』
電車が通り過ぎて再び静けさに包まれた辺りを矢野は見回した。周囲に人気《ひとけ》はない。
『声が聞こえた方ってトンネルの向こうっぽくなかった?』
高木が高架下のトンネルを指差す。矢野は壁面に落書きされたトンネルの内部を目を凝らした。
複数の人間の足音が近付いてくる。一人以上の人間がトンネル内を地響きを鳴らすようにこちらに向かって来ている。
校門を出た先にパトカーが一台停まっていた。車内に人はいない。
『学校の前ってことは警察がうちの学校に何か用なのか?』
『うちの生徒が何かやらかしたって話は聞いてないけどな……』
不良高校ならともかく、進学校の西堀高校に警察が訪ねてくる事態はまず起こらない。
『ま、俺達には関係ねぇよな。それより急ごうぜ。圭佑《けいすけ》達が待ってる』
今日はこの後に中学時代の仲間と集まる約束がある。高木は腕時計をちらちら見て時間を気にしていた。
学校に警察が来ていても自分には関係がない。何かあれば、そのうちどこからか噂が聞こえてくるだろう。
矢野はしばし無人のパトカーを眺めていたが、高木に促されてパトカーに背を向けた。
久々に会った中学時代の仲間とカラオケやバッティングセンターでの打ち合いを楽しみ、ファミレスで夕食を食べて解散した。
矢野は“高校生の矢野一輝”としての今を満喫していた。
『やっぱり勉強ばっかじゃなく高校生は遊ばないとなーっ! 歌ってボール打ってスッキリした』
帰り道も一緒の高木が鼻歌を歌ってスキップしている。矢野はブレザーのポケットに両手を入れて高木の後ろをだらだらと歩いた。
春の夜風が気持ちいい。明日は祝日で学校は休み。帰りが少しくらい遅くなっても武田家の人間は必要以上に干渉しない。
せいぜい従姉の梨乃が小言を呟く程度だ。
梨乃も大学生になり、サークル活動やバイトに忙しく家にいる時間も減った。最近は梨乃とは朝食の時間にしか顔を合わせていない。
議員の娘である梨乃は金銭的に不自由はしていない。彼女がアルバイトをしなければいけない理由はどこにもないのに、社会勉強の名目でバイトを始めたらしい。
バイト先が小学生を対象とした英会話塾なのは実に梨乃らしいが、バイトをすることでわざと家を空けて、武田家を訪れる片想いの相手の早河と会うのを避けているようにも思えてしまった。
(早河さんは相変わらずクールで何考えてるのかわかんないし。でもそこがあの人の格好いいとこなんだけどさ)
高架下のトンネルが見えてきた。あのトンネルを抜けると駅が近い。街灯の明かりだけの夜道を高木とふざけあって歩く。
『一輝、パス』
『よっしゃ、シュートォー!』
道端に空のペットボトルが捨ててあり、そのペットボトルをサッカーのように蹴りあって二人は遊んでいた。
高架を電車が通過する音に紛れて聞こえてきた音に、矢野と高木は動きを止めた。
『今……何か聞こえた?』
『俺も聞こえた。悲鳴みたいな……』
電車が通り過ぎて再び静けさに包まれた辺りを矢野は見回した。周囲に人気《ひとけ》はない。
『声が聞こえた方ってトンネルの向こうっぽくなかった?』
高木が高架下のトンネルを指差す。矢野は壁面に落書きされたトンネルの内部を目を凝らした。
複数の人間の足音が近付いてくる。一人以上の人間がトンネル内を地響きを鳴らすようにこちらに向かって来ている。