早河シリーズ短編集【masquerade】
先に高木を自宅に送り届け、矢野は無事に武田家に帰宅した。スリッパの音が聞こえて玄関先に梨乃が飛び出してくる。
「一輝っ! 大丈夫だったの?」
『まぁなんとか。誤認逮捕ってやつ? あ、逮捕じゃなくて誤認補導か』
「びっくりしたよ。バイトから帰ってきたら一輝が補導されたってお母さんから聞いて……」
梨乃はすでにパジャマ姿だった。リビングから伯母も顔を覗かせる。二人で矢野の帰りを待っていたようだ。
『たまたま事件が起きた場所の近くに居たからって補導することねぇよな。こっちの話も聞かずに犯人扱いだった』
「災難だったね。お風呂熱くしてくるから待ってて」
梨乃が風呂場に駆けて行く。矢野は伯母にも心配かけたことを詫びて二階の自室に戻った。
ブレザーの上着を脱いで椅子の背にかけ、緩く締めたネクタイをほどく。電気をつけずに間接照明だけをつけてベッドに寝そべった。
『はー……。疲れた』
オレンジ色の照明が淡く光る天井を眺める。このまま眠りたい衝動に駆られたが梨乃が風呂を温め直してくれている。眠るわけにはいかない。
(集団暴行に恐喝にひったくりか。夕方学校に来ていた警察はひょっとしてその関係?)
梨乃が沸かしてくれた風呂に入り、上半身は何も身に付けずスエットのズボンだけを履いてリビングに向かう。
濡れた髪をタオルで乱雑に拭きながら彼は風呂上がりのコーラを飲んだ。梨乃も伯母も今は自室だ。
家主の武田はまだ帰宅していない。武田が自宅に帰らない日は珍しくなく、今夜もそうなのだろう。
『……アレ使ってみるか』
一度自室に戻って上半身にも服を着て、隣室の武田の書斎に入った。書斎にはパソコンが一台置いてある。
内閣府調査によると1998年当時の一般家庭のパソコン普及率は25%程度。所有台数も一世帯に約1.28台だった。
武田家には武田の書斎に一台、家族ならば誰でも使用できるパソコンが今年から置かれるようになった。主に使用する人間は矢野と秘書の村瀬くらいで、伯母や梨乃はパソコンに触りもしない。
パソコンの使用頻度は矢野が最も多く、操作も手慣れていた。
『掲示板に書き込みしてる奴いるかな』
パソコン普及率に比べてインターネット利用率はまだまだ低かった。パソコンの利用は電子メールやチャットが主だった使い方だったが、矢野は違う利用の仕方を取得していた。
それがネット掲示板だ。
家庭でのパソコン普及率が30%未満でも学校や図書館のパソコンは高校生でも扱える。誰かが事件について書き込みをしていないか期待を抱いて関連するワードを打ち込み、掲示板を探った。
(これってまさか……)
矢野はある書き込みに目を留める。少しずつ画面をスクロールして文字を目で追った。
──[田町駅辺りって最近オヤジ狩り多いよね]
──[昨日見た! 7人組で野球のバッド持ってた]
──[あれって英明の奴らじゃない?]
──[英明って英明《えいめい》ゼミナール? ガリ勉ばっかり通ってる塾]
──[ガリ勉が憂さ晴らしにオヤジ狩りかー。やりそう~]
書き込みの日付は1週間前の4月20日から26日にかけて匿名のやりとりが延々と続いていた。
「一輝っ! 大丈夫だったの?」
『まぁなんとか。誤認逮捕ってやつ? あ、逮捕じゃなくて誤認補導か』
「びっくりしたよ。バイトから帰ってきたら一輝が補導されたってお母さんから聞いて……」
梨乃はすでにパジャマ姿だった。リビングから伯母も顔を覗かせる。二人で矢野の帰りを待っていたようだ。
『たまたま事件が起きた場所の近くに居たからって補導することねぇよな。こっちの話も聞かずに犯人扱いだった』
「災難だったね。お風呂熱くしてくるから待ってて」
梨乃が風呂場に駆けて行く。矢野は伯母にも心配かけたことを詫びて二階の自室に戻った。
ブレザーの上着を脱いで椅子の背にかけ、緩く締めたネクタイをほどく。電気をつけずに間接照明だけをつけてベッドに寝そべった。
『はー……。疲れた』
オレンジ色の照明が淡く光る天井を眺める。このまま眠りたい衝動に駆られたが梨乃が風呂を温め直してくれている。眠るわけにはいかない。
(集団暴行に恐喝にひったくりか。夕方学校に来ていた警察はひょっとしてその関係?)
梨乃が沸かしてくれた風呂に入り、上半身は何も身に付けずスエットのズボンだけを履いてリビングに向かう。
濡れた髪をタオルで乱雑に拭きながら彼は風呂上がりのコーラを飲んだ。梨乃も伯母も今は自室だ。
家主の武田はまだ帰宅していない。武田が自宅に帰らない日は珍しくなく、今夜もそうなのだろう。
『……アレ使ってみるか』
一度自室に戻って上半身にも服を着て、隣室の武田の書斎に入った。書斎にはパソコンが一台置いてある。
内閣府調査によると1998年当時の一般家庭のパソコン普及率は25%程度。所有台数も一世帯に約1.28台だった。
武田家には武田の書斎に一台、家族ならば誰でも使用できるパソコンが今年から置かれるようになった。主に使用する人間は矢野と秘書の村瀬くらいで、伯母や梨乃はパソコンに触りもしない。
パソコンの使用頻度は矢野が最も多く、操作も手慣れていた。
『掲示板に書き込みしてる奴いるかな』
パソコン普及率に比べてインターネット利用率はまだまだ低かった。パソコンの利用は電子メールやチャットが主だった使い方だったが、矢野は違う利用の仕方を取得していた。
それがネット掲示板だ。
家庭でのパソコン普及率が30%未満でも学校や図書館のパソコンは高校生でも扱える。誰かが事件について書き込みをしていないか期待を抱いて関連するワードを打ち込み、掲示板を探った。
(これってまさか……)
矢野はある書き込みに目を留める。少しずつ画面をスクロールして文字を目で追った。
──[田町駅辺りって最近オヤジ狩り多いよね]
──[昨日見た! 7人組で野球のバッド持ってた]
──[あれって英明の奴らじゃない?]
──[英明って英明《えいめい》ゼミナール? ガリ勉ばっかり通ってる塾]
──[ガリ勉が憂さ晴らしにオヤジ狩りかー。やりそう~]
書き込みの日付は1週間前の4月20日から26日にかけて匿名のやりとりが延々と続いていた。