早河シリーズ短編集【masquerade】
 煙たい視界の中に武田の鋭い眼孔がこちらを向いている。

『捕まえたいっていうか、真実を知りたいだけ』
『真実ね。潜入とは具体的にどうするつもりだ?』
『ゴールデンウィーク明けに2週間の無料体験コースを受けようと思ってる。2週間のうちに何かわかるかもしれないし、わからないかもしれない。申込用紙の保護者の欄に名前と印鑑がいるんだ。お願いします』

 両手で申込書を差し出して頭を下げる。
武田は喉の奥から笑いを漏らして申込書を受け取った。彼は煙草を灰皿に捨て、リクライニングチェアーから腰を起こす。

『村瀬。ペンと印鑑を』
『はい』

あまりにもあっさりとした武田の承諾に拍子抜けして矢野は顔を上げた。眼鏡をかけた武田が申込書に自分の名前を記入して捺印を押す。

『いいの?』
『やりたいんだろう? 思った通りにやってみればいい。予備校も通いたいならそのまま通ってもいいぞ』
『いや、まだそこまでは考えてないから……ありがとうございます』

ひと仕事終えた武田は眼鏡を外して再び椅子に深く腰掛けた。

『人手がいる場合は貸してやってもいいが人の使い方は自分で考えろ。今夜はちょうど仁がいるから奴に相談してみるといい。こういったことはプロだからな』
『そっか。早河さんは警察学校で犯罪の勉強してるし詳しいよね』

 保護者欄に武田の署名と捺印が加わった申込書を持って矢野は武田の部屋を辞した。
矢野が部屋を出ていくと、それまで黙って矢野と武田のやりとりを静観していた村瀬が口を開いた。

『一輝様にそのようなことをさせてよろしいのですか? 相手は同じ高校生とは言えども集団暴行や恐喝を行う人間です。万が一のことがあれば一輝様の身が危険に晒されます』

直立不動の村瀬は無表情に主を見下ろす。武田が豪快に笑った。

『かまわん。あいつの潜在能力がどこまでのものか知るいい機会だ。もしもの時はお前がフォローしてやってくれ』
『それはもちろんですが……。健造様は将来的に一輝様に何をさせるおつもりですか?』

 武田は両方の眉毛を上げて椅子のアームレストに頬杖をつく。

『さて何をさせようかね。すべては一輝の能力次第だな』


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