早河シリーズ短編集【masquerade】
 両親の一周忌も終わり、ゴールデンウィークが明けた5月7日、木曜日。

連中明けのけだるさを抱えて矢野と高木は放課後に英明ゼミナール芝浦校を訪れた。事前に電話連絡を入れてあった二人は申込書を事務局に渡した後、別室に案内された。

 机が並ぶ室内には矢野や高木の他にも体験コース希望の高校生が四人いた。矢野達を合わせて六人の希望者に向けて、男性講師がホワイトボードを使って体験の流れを説明してくれる。

まず現時点での志望大学や志望学部、得意科目、不得意科目を答えるアンケート記入をし、その後は体験コース希望者の志望学部に合わせた小テストが行われた。

 テストを済ませてその場は解散となった。後日、テストの回答とアンケートの回答を照らし合わせた2週間の体験カリキュラムを講師が提示する仕組みらしい。

『行ってすぐ体験ーってわけにはいかないのかよ。難しいテストは受けさせられるしさぁ』

 高木は思いがけず行われたテストに疲れきった様子だ。英明ゼミナールのテストは制限時間30分で解くには難問が多く、学校のテストの方がまだマシだった。

『明日また来て体験のカリキュラムが渡されるんだよな。日程に火曜金曜が入っていればいいけど』

矢野は学校とは違う独特な雰囲気の予備校の廊下を見回した。数人の生徒とすれ違ったが彼らの顔に笑顔はなく、無表情に参考書やノートを眺めている。

本格的な受験シーズンはまだ先でも、受験生にとってはこの1年すべてが勝負の年なのだろう。

『うぇー。今さら後悔してきた。俺、こういう勉強しましょうねって雰囲気苦手なんだよ』
『止めるか? 今ならまだ体験辞めるの間に合うだろ』

 予備校の張り詰めた空気に辟易とする高木とは違って矢野は平然としていた。もともと場の空気に飲まれる質でもなく、肌に合わない場所に留まる経験も伯父に連れられた政治関係の集まりで慣れていた。

『でも犯人は気になるし、やる。やってやろうじゃねぇか!』
『それでこそ俺の相棒だ』

 しかしそんな矢野でも英明ゼミナールの建物を出ると不思議と安堵の気分になった。やはり同じ建物内に集団暴行事件の犯人が潜んでいると思うとヒヤリとしたものが背筋に流れる。

『事件が起きる日が火曜金曜って何でなんだろう?』
『生徒の適性に合わせたカリキュラムが組まれるってさっきの説明で言ってただろ? 受ける授業もカリキュラムごとに違うし、文系理系でも分かれてる。たぶん火曜金曜が犯人グループが全員揃う曜日じゃないかと思う』

これは早河が指摘した事件発生日の曜日の法則性と英明ゼミナールの受講カリキュラムの仕組みを総合して出した推測。
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