早河シリーズ短編集【masquerade】
授業終了のチャイムと同時に矢野は教室を飛び出す。打ち合わせ通り階段の踊り場で待ち合わせた高木と共に、真っ先に英明ゼミナールのビルを出た。
英明ゼミナールがあるビルの反対側の道に渡り、ビルの玄関を見張る。生徒が少しずつビルから出てきた。
『今日も疲れたぜー。英単語に追いかけられる夢見そう』
今日の授業でもぐったり疲れきった様子の高木は電信柱にもたれて溜息をついた。
矢野はカバンからデジタルカメラを取り出す。村瀬に借りた高性能のデジカメだ。
『あと少し頑張れ。上手くすれば今日、奴らの犯行現場を押さえられるかもしれねぇぞ』
犯行の瞬間をカメラで撮影する……犯罪の証拠を残すためではある。でもそれが正解なのか?
『本当は奴らが犯行を犯す前に止めるべきなんだろうな』
目の前で殴られたり窃盗被害に遭っている人間がいても、自分は助けずに安全な場所で写真を撮る……それが正解?
写真が証拠となって犯人グループが捕まれば次の犯行は防げるかもしれない。だけど目の前で起きている犯罪はどうなる?
今夜もし奴らが犯行に及んでその瞬間の写真を撮影できたとしても、今夜の被害者は証拠写真のための生け贄になるだけだ。
それは正しいこと?
『今さら迷うのか? 俺達は証拠写真撮って110番すればいいだけだ』
『そうだけどさ……それだけでいいのかなって』
『相手は七人だぞ。しかも野球のバット持ってたりするんだろ? 二人だけでどうやって太刀打ちすんだよ』
『……バット?』
そこで矢野はハッとした。目は玄関口を捉えていても意識は別の方向に向かう。
『そうだ、バットだ』
『バットが何だ?』
電信柱に背をつけて座り込んだ高木も英明ゼミナールの玄関からは目を離さない。まだ七人組の集団は予備校から出て来ていなかった。
『ああー。俺はアホだ。なんでもっと早くに気付かなかったんだ』
矢野は額を押さえて項垂れる。高木は矢野の言葉の意味がわからず困惑した。
『おーい。ひとりで納得して完結してないでちゃんと説明してくれ』
『犯人は犯行にバットを使ってたらしい。バットをどうやって予備校に持ち込んだ?』
『どうやってって……ケースに入れて……?』
『生徒で荷物にバット持ってる奴いたか? 予備校は学校じゃない。バットを持ち込んでいれば目立つ』
『確かに。学校と違って個人用のロッカーもなければ座る席も決まってないからなぁ』
ようやく合点がいった高木も眉をひそめる。矢野は話を続けた。
『自転車も予備校専用の駐輪場はないからみんな駅前の駐輪場に停めてる。バットを盗む奴はそうはいないと思っても自転車のカゴにバット置き去りにするのも無用心だ。でも犯人はバットを所持していた』
『つまりどういうことだ?』
話が核心に近付いたところで予備校の前に二台の自転車が停まった。
英明ゼミナールがあるビルの反対側の道に渡り、ビルの玄関を見張る。生徒が少しずつビルから出てきた。
『今日も疲れたぜー。英単語に追いかけられる夢見そう』
今日の授業でもぐったり疲れきった様子の高木は電信柱にもたれて溜息をついた。
矢野はカバンからデジタルカメラを取り出す。村瀬に借りた高性能のデジカメだ。
『あと少し頑張れ。上手くすれば今日、奴らの犯行現場を押さえられるかもしれねぇぞ』
犯行の瞬間をカメラで撮影する……犯罪の証拠を残すためではある。でもそれが正解なのか?
『本当は奴らが犯行を犯す前に止めるべきなんだろうな』
目の前で殴られたり窃盗被害に遭っている人間がいても、自分は助けずに安全な場所で写真を撮る……それが正解?
写真が証拠となって犯人グループが捕まれば次の犯行は防げるかもしれない。だけど目の前で起きている犯罪はどうなる?
今夜もし奴らが犯行に及んでその瞬間の写真を撮影できたとしても、今夜の被害者は証拠写真のための生け贄になるだけだ。
それは正しいこと?
『今さら迷うのか? 俺達は証拠写真撮って110番すればいいだけだ』
『そうだけどさ……それだけでいいのかなって』
『相手は七人だぞ。しかも野球のバット持ってたりするんだろ? 二人だけでどうやって太刀打ちすんだよ』
『……バット?』
そこで矢野はハッとした。目は玄関口を捉えていても意識は別の方向に向かう。
『そうだ、バットだ』
『バットが何だ?』
電信柱に背をつけて座り込んだ高木も英明ゼミナールの玄関からは目を離さない。まだ七人組の集団は予備校から出て来ていなかった。
『ああー。俺はアホだ。なんでもっと早くに気付かなかったんだ』
矢野は額を押さえて項垂れる。高木は矢野の言葉の意味がわからず困惑した。
『おーい。ひとりで納得して完結してないでちゃんと説明してくれ』
『犯人は犯行にバットを使ってたらしい。バットをどうやって予備校に持ち込んだ?』
『どうやってって……ケースに入れて……?』
『生徒で荷物にバット持ってる奴いたか? 予備校は学校じゃない。バットを持ち込んでいれば目立つ』
『確かに。学校と違って個人用のロッカーもなければ座る席も決まってないからなぁ』
ようやく合点がいった高木も眉をひそめる。矢野は話を続けた。
『自転車も予備校専用の駐輪場はないからみんな駅前の駐輪場に停めてる。バットを盗む奴はそうはいないと思っても自転車のカゴにバット置き去りにするのも無用心だ。でも犯人はバットを所持していた』
『つまりどういうことだ?』
話が核心に近付いたところで予備校の前に二台の自転車が停まった。