早河シリーズ短編集【masquerade】
 七人が動き出した。彼らはたむろしているコンビニから出てきたスーツ姿の中年男性を指差して何か言っている。あの中年男性が今夜の標的?

『涼馬、ここからは別行動にしよう。何かあったら携帯に電話して』
『でも別行動って……』
『俺はこのまま奴らを追う。涼馬は奴らがいたコンビニの店員に話を聞いてきてくれ』

自転車の二人は自転車を動かし、他の五人も駐車場を離れた。中年男性は通りを真っ直ぐ歩いていく。あちらは田町駅の方向だ。

『話ってあいつらの?』
『ああ。なんでもいいからあいつらの会話の内容や互いに呼んでいた名前、奴らのことで何か覚えていることがないか店員に探ってきてほしい。あいつらがこの時間帯の常連ならたぶん店員も覚えてるはずだ』

 矢野はすでに高木のいる地点から数歩先に進んでいた。一度言い出すと何を言っても聞かない矢野の性格は高木もわかっている。

『りょーかい。気を付けろよ』
『お前もな。頼んだ』

 高木は向かいのコンビニに行くために横断歩道のない道を左右見回してから素早く渡った。

高木と別れて七人を追いかける矢野は激しくなる動悸から左胸を押さえる。

いつでも110番できるように携帯電話はジャケットの右ポケットに、撮影画面にセットしたデジカメは左手に持っていた。

(自転車の二人は今は自転車引いてる。逃げる時に後ろにひとりずつ乗せて逃げるつもりか?)

 夜道を広がって歩く七人の前には中年男性がいる。反対側の道を歩く矢野からは中年男性の姿が確認できた。

彼らはどこで犯行に及ぶ? もうすぐ矢野が4月に彼らを目撃したトンネルに着く。

(あのトンネル辺りって人気《ひとけ》はないし襲うには絶好の場所だよな)

 急に二人が自転車に跨がった。ペダルをゆっくり漕ぎ始めたと思えば二台の自転車は速度を上げて中年男性を追い越し、男性の行く手を防ぐように自転車を停めた。ブレーキの音が甲高く響く。

(まずい。このままじゃ……)

 電柱の後ろに隠れてすぐさま携帯電話で110番に電話をする。交換手に繋がり、矢野は田町駅のトンネル近くで高校生の集団が男を襲っていると通報した。

通報の最中に悲鳴が聞こえた。矢野は交換手に今いる場所を早口で伝えて電話を切る。
彼はデジカメのレンズを通して広がる光景に唖然とした。

 七人の高校生がトンネルの手前でうずくまる中年男性を取り囲んで男性の腹部や顔を蹴り飛ばして殴っている。抵抗できない男性に唾を吐き捨て、金属バットを男性の真横の地面に擦り付けて遊んでいた。
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