早河シリーズ短編集【masquerade】
 男子生徒は学級写真に写るどの生徒よりも肌が白い。肩幅の広い男性的な体つきの男子生徒に囲まれていると細身な身体が一層目立つ。
彼が〈ツル〉だ。

『今泉、こいつ知らない? この一番背が低くて色白の奴』

今泉に学級写真を見せてツルを指差した。今泉は近視の目を細めて写真を見つめる。

『あー……こいつ鶴岡だ』
『知り合い?』
『中学同じだった。名前は鶴岡慎太郎《つるおか しんたろう》。鶴岡製薬の社長の息子だ』
『鶴岡製薬……頭痛薬のCMでよく見るあそこの会社か』

 ツルは苗字の鶴岡からとったアダ名のようだ。

『よりによって鶴岡とはなぁ。こいつに何の用か知らねぇけど、鶴岡には関わらない方がいい』
『なんで?』
『中学の頃から色々黒い噂があった奴でさ。中2の時に鶴岡をいじめてた同級生の父親がいきなり会社をリストラされて、それは裏で鶴岡が父親の権力使って会社辞めさせたって噂。鶴岡に関わると痛い目見るから教師も生徒もみんなあいつには手出しできない』

今泉は苦笑いして大きな口でおにぎりの残りを飲み込んだ。思わぬ形でもたらされたツルの情報と事件の概要を照らし合わせると、これまで引っ掛かっていたことがひとつに繋がる。

『そういうことだったのか……』
『おいおい。そういうことだったのか、じゃなくて! 鶴岡はまじにヤバいからな』
『わかってる。サンキュー』

 3限授業開始のチャイムが鳴って今泉との話も打ち切られた。

4月からの集団暴行事件が表立って新聞やテレビで報道されない理由も、気弱そうな見た目の鶴岡が犯人グループのリーダーに君臨している理由も、すべては彼が大企業の社長の息子だからと考えると合点がいく。

(鶴岡の父親が事件が表沙汰にならないよう手を回してる?)

 今日は予備校の授業はない。鶴岡慎太郎と彼の父親の会社について調べられないものか思案した結果、最も適した人物に相談することに決めた。

 昼休みに寺田教諭に学級写真を返却し、ついでに学校の電話を借りて伯父の議員事務所に連絡を入れた。校内では携帯電話の使用は禁止されている。

『うん、そう。5分でもいいから俺と会える時間作って欲しいって伯父さんに伝えてください』

電話応対に出た秘書の村瀬に武田への伝言を頼んだ。矢野が電話をしている間、寺田教諭はスチール棚に並ぶファイルに学級写真をしまっていた。

『電話貸してくれてありがとうございます』
『もういいのか?』
『はい』

指導室の固定電話に受話器を戻して寺田に一礼する。

『もしかしたらまた先生に頼ることがあるかもしれないけど……』
『その時はまた言ってこい。力になってやる』
『先生って顔は怖いのにイイ人だよね』
『顔が怖いは余計だー!』

 寺田に髪の毛をグシャグシャになるまで頭を掻き回された。指導室を出た彼は廊下を歩きながら乱れた頭を整える。

生徒指導部統括で強面な寺田だが、1年前に矢野が両親を亡くした時に寺田は何かと世話を焼いてくれた。今では西堀高校のどの教師よりも親しくしている。

 階段で待っていた高木と共に一階に降りた。一階の窓からは校庭が見え、テニス部の女子部員が昼休みの校庭でテニスの練習に励んでいた。
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