早河シリーズ完結編【魔術師】
ランドリーに現れたあの人の行動も、今置かれている状況もすべてが貴嶋の策略。9年前もそうだった。あの時もまんまと貴嶋の策略にはまり、捕らわれた。
「斗真はどこ?」
『自分の身よりも息子の身を案じるとは、さすが母親だね。君の息子はここにはいない。別の場所で預かっているよ。顔立ちは父親に似ていても、寝顔は君によく似ていて可愛かったよ』
罪もない子どもを誘拐しても悪びれる様子もなければ謝罪の言葉もない。元よりこの男に、そのような詫びの姿勢を求めるだけ無駄だと諦めてはいても、いざ本人を前にすれば息子を誘拐されたことへの怒りが込み上げる。
美月は高ぶる感情を抑えつつ、9年振りの再会となる貴嶋の横顔を見据えた。9年分の年齢を重ねていても、犯罪組織の帝王に君臨した彼が発する冷たい威圧感は健在だった。
夜と朝が入れ替わる夜明けの瞬間が訪れた。東に昇る朝日の光が室内に差し込み、部屋の明るさが一気に増す。
壁一面を覆う大きな窓の向こうに雄大な海が見えた。
「斗真の誘拐も隼人を殺そうとしたのも全部あなたがやらせたの?」
『君の周りで何が起きているのか把握はしている。私の部下が関与していることも事実だよ』
肯定とも否定ともつかない回りくどい物言いが美月を苛つかせる。結果として貴嶋が暗躍しているのは事実だ。
「また私をここに閉じ込める気? 何が目的?」
『そんなに怖い顔をしないでくれよ。君の美しい顔が台無しだ』
貴嶋が美月に手を伸ばす。反射的に顔を背けたが、彼は美月の髪に指先を通して何度もすいた。
『君は年齢を重ねるほどに美しくなるね。17歳の美月や20歳の美月は可憐な女の子だったが、今の君は優美な淑女だ。とても綺麗だよ』
貴嶋は人を煽惑《せんわく》する術に長けている。彼が囁く言葉には魔力が宿り、惑わされた者は貴嶋の思うがまま、彼のマリオネットになる。
「斗真はどこ?」
『自分の身よりも息子の身を案じるとは、さすが母親だね。君の息子はここにはいない。別の場所で預かっているよ。顔立ちは父親に似ていても、寝顔は君によく似ていて可愛かったよ』
罪もない子どもを誘拐しても悪びれる様子もなければ謝罪の言葉もない。元よりこの男に、そのような詫びの姿勢を求めるだけ無駄だと諦めてはいても、いざ本人を前にすれば息子を誘拐されたことへの怒りが込み上げる。
美月は高ぶる感情を抑えつつ、9年振りの再会となる貴嶋の横顔を見据えた。9年分の年齢を重ねていても、犯罪組織の帝王に君臨した彼が発する冷たい威圧感は健在だった。
夜と朝が入れ替わる夜明けの瞬間が訪れた。東に昇る朝日の光が室内に差し込み、部屋の明るさが一気に増す。
壁一面を覆う大きな窓の向こうに雄大な海が見えた。
「斗真の誘拐も隼人を殺そうとしたのも全部あなたがやらせたの?」
『君の周りで何が起きているのか把握はしている。私の部下が関与していることも事実だよ』
肯定とも否定ともつかない回りくどい物言いが美月を苛つかせる。結果として貴嶋が暗躍しているのは事実だ。
「また私をここに閉じ込める気? 何が目的?」
『そんなに怖い顔をしないでくれよ。君の美しい顔が台無しだ』
貴嶋が美月に手を伸ばす。反射的に顔を背けたが、彼は美月の髪に指先を通して何度もすいた。
『君は年齢を重ねるほどに美しくなるね。17歳の美月や20歳の美月は可憐な女の子だったが、今の君は優美な淑女だ。とても綺麗だよ』
貴嶋は人を煽惑《せんわく》する術に長けている。彼が囁く言葉には魔力が宿り、惑わされた者は貴嶋の思うがまま、彼のマリオネットになる。