早河シリーズ完結編【魔術師】
 鎌倉市内の県道32号線沿いにその建物は建っていた。屋根は濃い緑色、白い外壁に野菜やフルーツのプリントが施された普遍的な外観のスーパーだ。

大西の情報では、このスーパーでたびたび地元の人間とは思えない外国人の男が目撃されている。

 スーパーの専用駐車場になぎさが現れた。スーパーの袋を提げて早河が待つ車に戻った彼女は、袋からおにぎりやポテトサラダ、フライの詰め合わせパックを取り出した。

「おにぎりも色々買ってきたよ。明太《めんたい》マヨ、五目《ごもく》、昆布、ツナマヨ、どれにする?」
『五目と明太マヨ』
「ふふっ。だと思った。エビフライはタルタルソースでいい?」
『もちろん』

 薄暗い屋内駐車場の片隅で昼食にありつく。早河は五目おにぎりとタルタルソースをつけたエビフライを頬張った。なぎさも昆布おにぎりの封を開け、コロッケに箸をつける。

「こんなこと言ってる場合じゃないけど、二人で聞き込みや張り込みしたり、駐車場でご飯食べたりするの懐かしいね」
『そうだな。なぎさが助手の頃は何度かやったよな。張り込みは浮気調査が多かったか』
「そうそう。浮気相手の女の家を張り込みながら、車でコンビニのおにぎり食べたり。仕事内容は気分のいいものではなかったけど、ピクニックみたいで楽しかった」

 早河の助手として駆け出しだった当時を思い出してなぎさは頬を緩める。あの頃は、早河と結婚して彼の子どもを産む人生が待っているなんて想像もしていなかった。

 五目おにぎりを完食した早河は佐藤が送ってきたアーサーレイノルズの顔写真をタブレット端末に表示する。佐藤はあの連絡の後わずか1時間足らずで写真を送ってきた。

犯罪組織に所属していた佐藤の仕事の速さはさすがと言うべきだ。貴嶋が佐藤を重宝《ちょうほう》していたのも頷ける。

「スーパーの店員さんに写真見せて聞いてみた。確かに若い黒人の男が今週から買い物に来るようになったとは言ってたよ。でもそれがアーサーレイノルズかどうかはわからない、目がギロッとしてる所は似てるけど、皆同じ顔に見えてきちゃうからって……」
『顔や身体に特徴的な何かがないと案外、人の顔は記憶に残らないものだ。見慣れない外国人なら尚更、識別できなくても仕方ないよな』

アーサーレイノルズは推定年齢26歳、がっしりとした体格のアメリカ人だ。

 手早く昼食を済ませてスーパーを出た早河の車は、県道23号線をしばらく直進する。片側一車線の道路の周囲には住宅や工場が並んでいて、平日の昼間でもそれなりの交通量だった。

県道から右折すると道はなだらかな上り坂に入る。ここからは鎌倉山に入る道だ。
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