早河シリーズ完結編【魔術師】
 鎌倉山は鎌倉市西部に位置する標高100メートルの丘陵《きゅうりょう》地帯。昭和初期には高級別荘地として開発され、今も道路沿いには住宅が点在している。

 住宅街に挟まれた傾斜の道はゆるやかにカーブし、次第に住宅は姿を消して木々が頭上を覆うようになる。やがて平坦な道になるとまた住宅が姿を見せた。

森林と住宅街の繰り返しの景色に飽きてきた頃に鎌倉山駐在所が見え、大西との集合場所に辿り着いた。

 先に到着していた大西は介護施設の駐車場に車を停めて待っていた。山里で聞き込みをするにも車を停める場所がなく、大西が介護施設側に事情を説明して駐車させてもらえることになっている。

 早河も介護施設の駐車場に車を停めて車外に出る。大西は吸っていた煙草を携帯灰皿に捨てて早河に駆け寄った。

『今のところ奴の姿は発見できてない。でも住民達が黒人が歩いてる姿を見掛けるのは、ちょうどこの辺りが多いそうだ』
『この辺りって……特に何もないよな。コンビニがあるわけでもないし、例の木犀館からここまでは歩いて来られる距離ってことか?』
『かもな。この道沿いにあるのは俺達が今いる介護施設と交番と花屋と……あとは、あそこにコーヒー屋があるくらいか。住民の話だと、なかなか旨いらしいぞ』

 介護施設の駐車場から道を挟んで向かい側にこじんまりとした喫茶店がある。鎌倉文学館の近くで早河達が入った喫茶店と同じような雰囲気の店だ。

 店の扉が開いて人が出てきた。なぎさが早河の腕を引いて視線を喫茶店に促す。
喫茶店から出てきたのはキャップを被ったアメリカ系の黒人男性だった。

早河達が捜しているアーサーレイノルズかどうかは遠目では判断がつかない。佐藤が送ってきた写真と見比べている余裕もなかった。

 男は喫茶店に面した傾斜の道を歩いていく。早河達も一定の距離を保って男を追った。

『奴は武器を所持してるかもしれないんだろ?』
『ああ。こんな場所でドンパチしたくない。民間人を人質にとられたら厄介だ』
『同僚が直にこっちに応援に来る。奴らを捕らえるのは応援を待ってからだ。いいな?』

大西が早河に念押しする。早河は澄まし顔で頷いた。

『わかってる。俺だって元刑事だ。犯人確保の心得は忘れてねぇよ』
『だといいんだけどなぁ』

 空は木で覆われている。晴れたり曇ったりの不安定な空の下は非常に寒かった。木の根本には雪が残っている。
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