早河シリーズ完結編【魔術師】
 早河と共に男を追跡するなぎさは胸に手を当てた。心臓の動きが速い。
真愛がこの町のどこかにいると思うとすぐに駆け出したい衝動に襲われ、あの男が貴嶋の手下なら自分達の身にも危険が迫っていると感じて怖くなった。

 単調な足取りで前を歩いていた男が英語で怒鳴り声をあげて振り向いた。

『伏せろ!』

男の動きを察した早河は、なぎさの頭を抱え込んで木立に身を伏せた。拳銃の発砲音が響いて銃弾が木に命中する。なぎさは両耳を塞いで早河の腕の中で固く目を閉じた。

 大西が木の影から男を銃で威嚇する。大西が放った弾が男の腕をかすめ、男は呻き声をあげて逃走した。
申し訳程度にコンクリートで舗装された幅の狭い道路の両側には木々が枝を揺らしている。

 ゆるくカーブする坂の上に二階建ての大きな家が見えた。男はその家に向けて走っている。
あの建物が貴嶋が秘密裏に所有する別荘、木犀館かもしれない。

早河達が坂の上に到着した時、屋敷の門から先ほどの黒人ともうひとり別の外国人が現れた。二人の男は訛りの強い英語でまくしたて、ナイフをちらつかせている。

『大西、こうなれば強行突破だ。いいよな?』
『はいはい。お前といるとホント無茶させられるよ』

大西が身構える。早河は背後のなぎさに耳打ちした。

『俺達が奴らを抑えてる隙に家に入れ。中にまだ仲間がいるかもしれない。もしもの時はアレを使えよ』
「わかった」

 臨戦態勢は整った。最初に仕掛けたのは大西だ。大西は意味不明な英語で相手を煽り、激怒した男二人が襲いかかってきた。

元刑事の早河と現役刑事の大西は、自分達よりも上背もあり体格差もある男達にひけをとらない動きで相手の制圧にかかる。

 なぎさは門前で繰り広げられる男達の格闘をすり抜けて家の敷地に足を踏み入れた。なぎさの動きに気付いた男が彼女を止めようとするも、それは早河達に阻まれた。

手入れのされていない庭は荒れていた。門と玄関を繋ぐ石畳の通路には伸びた雑草が張り出している。
莉央が存命の頃ならば、庭の手入れも隅々まで行き届いていたはずだ。

 玄関の鍵は開いていた。靴を脱ぐ礼儀もこの逼迫《ひっぱく》した状況では皆無だ。

「真愛っ! 斗真くん! いるのっ?」

なぎさは土足で上がり込み、家中に響く声で娘の名前を呼んだ。
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