早河シリーズ完結編【魔術師】
1月19日(Fri)午前7時

 早河家の朝はいつも母と娘の戦いから始まる。なぎさは真愛の布団をめくりあげた。

「真愛ぁー! いい加減に起きなさい」
「やだぁー。さむいぃー」

真愛は一緒に寝ているうさぎのぬいぐるみを抱き締めて、ベッドの上でごろごろ転がった。なぎさがめくった布団を奪い返して真愛は再び布団に潜る。

「学校遅れるでしょ。ほら、起きて起きて」

 真愛の朝が弱いところは父親にそっくりだ。毎朝なぎさが真愛を起こして、パジャマのままリビングに強制連行するおきまりのパターンは、今日も同じだった。

叩き起こされて不機嫌な真愛はイチゴジャムを塗りたくったトーストを頬張る。食卓に父の姿はなかった。

「パパは?」
「お仕事行ったよ」
「またぁ? いっつも真愛が起きる時にパパいない」
「嫌なら早起きさんになればいいのにねぇ。そうすればパパとも会えるよ」
「むぅ。ママだけパパとイチャイチャしてずるい。真愛だってパパにぎゅってしてほしいのに……」

 ずるいと言う真愛のセリフを早河に聞かせてやりたくて、なぎさは笑い転げた。娘にとっての父親の存在定義は様々だが、早河家を例に挙げれば真愛にとっては、早河が世界で誰よりも格好いい理想の男性らしい。

思いの外ファザコンな娘に育ってしまった。

 トーストとハムエッグとコーンスープを綺麗に平らげて真愛は両手を合わせる。

「ごちそうさまでした」
「はい、よく食べました。お顔洗って、お着替えしてきてね」
「はぁーい」

 ハート柄のパジャマのまま、真愛は椅子からピョンっと飛び降りて洗面所に走っていった。
返事だけはいつも百点満点なのだが、椅子を降りる時は静かにと何度教えても、あのおてんば娘は言うことを聞かない。……一体、誰に似たのだろう?

(お兄ちゃんが生きていたら、真愛のおてんば具合は私に似たって言いそう……)

 真愛が食べ終えた食器の片付けをする最中、リビングのテレビからニュースが聞こえてきた。

{──東京都東久留米市で昨日、未成年者男女五人の変死体が発見されました。警察は自殺と判断しており……}

 アナウンサーの声になぎさは洗い物の手を止める。テレビには死体発見現場近くの住宅街からの中継映像が映っていた。
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