早河シリーズ完結編【魔術師】
千秋が運転する車が東久留米市から霞が関の警視庁への帰路を辿る。これから頭の痛くなる捜査会議の時間だ。
「でも“キングの復活を我は望む”って意味深な呟きですよね。キリストの復活みたい……」
「あんな奴を復活させたいと思う心理が理解できない」
助手席のシートをわずかに倒して真紀は目を閉じる。昔は徹夜をした翌朝も体は軽々と動けていたのに、今は移動時間に少しでも休まなければもたない。
37歳の年齢からくる衰えには勝てないことを、身を持って実感した。
「貴嶋とはどんな人だったんですか? 真紀さんは9年前のカオス壊滅の時も捜査を担当されていたんですよね」
「とにかく嫌な奴よ。私がこれまで出会った犯罪者で一番の悪党。思い出すだけでムカムカする」
千秋に尋ねられて、真紀はまどろむ瞼の裏側で貴嶋佑聖の憎たらしい笑みを思い出す。
貴嶋佑聖の名前を警察関係者で知らない者はいない。真紀は9年前の犯罪組織カオス壊滅の時に捜査本部を指揮した、警察庁の阿部知己警視監の命を受けて動いていた。
いわばあの時の捜査本部の中心メンバーだ。
犯罪組織カオスの壊滅を見届け、逮捕した貴嶋の取り調べも担当した。
一昨年の2016年10月23日に貴嶋が東京拘置所を脱獄。ICPO(国際刑事警察機構)によって国際指名手配されたものの、彼の身柄を確保できないまま2018年を迎えた。
真紀のスマホが鳴る。芳賀からだ。
{スマホの契約者、全員分特定できました。そちらに詳細送ります}
真紀のタブレット端末に芳賀から自殺者五人が所持していたスマートフォンの契約者名が一覧で送られてきた。
羽石和博、大久保智嗣、稲垣健介、岡部照子、古川皐月。全員が親の名前だろう。
ここから自殺者の子どもを辿る作業になる。
最初の未成年者の集団自殺事件は2017年4月に起きた。死因に不審な点がないことから自殺の判断になったが、自殺者達は全員が何らかのSNSアカウントを利用していた。
特に若年層を中心として複数のSNSアカウントを利用する傾向にあり、リアルな友達=〈リア友〉専用のアカウントや、趣味専用のアカウントと分けている十代は多い。
自殺者達もリア友繋がりのSNSアカウントと趣味アカウントなど、複数のアカウントを使い分けている者が大半だった。
先ほど真紀が閲覧した〈あや@自殺垢〉もアカウントを切り替えると〈aya〉と彼女の日常を綴るツイッターアカウントが現れた。しかし〈aya〉のアカウントのツイートは2017年8月でツイートの更新は止まっている。
連続して起きている未成年者集団自殺事件の最大の共通点は、SNSアカウントでたびたび目にする自殺者専用のアカウント。集団自殺した未成年者達は皆が、自殺専用SNSアカウントを所持する自殺志願者だったのだ。
「でも“キングの復活を我は望む”って意味深な呟きですよね。キリストの復活みたい……」
「あんな奴を復活させたいと思う心理が理解できない」
助手席のシートをわずかに倒して真紀は目を閉じる。昔は徹夜をした翌朝も体は軽々と動けていたのに、今は移動時間に少しでも休まなければもたない。
37歳の年齢からくる衰えには勝てないことを、身を持って実感した。
「貴嶋とはどんな人だったんですか? 真紀さんは9年前のカオス壊滅の時も捜査を担当されていたんですよね」
「とにかく嫌な奴よ。私がこれまで出会った犯罪者で一番の悪党。思い出すだけでムカムカする」
千秋に尋ねられて、真紀はまどろむ瞼の裏側で貴嶋佑聖の憎たらしい笑みを思い出す。
貴嶋佑聖の名前を警察関係者で知らない者はいない。真紀は9年前の犯罪組織カオス壊滅の時に捜査本部を指揮した、警察庁の阿部知己警視監の命を受けて動いていた。
いわばあの時の捜査本部の中心メンバーだ。
犯罪組織カオスの壊滅を見届け、逮捕した貴嶋の取り調べも担当した。
一昨年の2016年10月23日に貴嶋が東京拘置所を脱獄。ICPO(国際刑事警察機構)によって国際指名手配されたものの、彼の身柄を確保できないまま2018年を迎えた。
真紀のスマホが鳴る。芳賀からだ。
{スマホの契約者、全員分特定できました。そちらに詳細送ります}
真紀のタブレット端末に芳賀から自殺者五人が所持していたスマートフォンの契約者名が一覧で送られてきた。
羽石和博、大久保智嗣、稲垣健介、岡部照子、古川皐月。全員が親の名前だろう。
ここから自殺者の子どもを辿る作業になる。
最初の未成年者の集団自殺事件は2017年4月に起きた。死因に不審な点がないことから自殺の判断になったが、自殺者達は全員が何らかのSNSアカウントを利用していた。
特に若年層を中心として複数のSNSアカウントを利用する傾向にあり、リアルな友達=〈リア友〉専用のアカウントや、趣味専用のアカウントと分けている十代は多い。
自殺者達もリア友繋がりのSNSアカウントと趣味アカウントなど、複数のアカウントを使い分けている者が大半だった。
先ほど真紀が閲覧した〈あや@自殺垢〉もアカウントを切り替えると〈aya〉と彼女の日常を綴るツイッターアカウントが現れた。しかし〈aya〉のアカウントのツイートは2017年8月でツイートの更新は止まっている。
連続して起きている未成年者集団自殺事件の最大の共通点は、SNSアカウントでたびたび目にする自殺者専用のアカウント。集団自殺した未成年者達は皆が、自殺専用SNSアカウントを所持する自殺志願者だったのだ。