早河シリーズ完結編【魔術師】
 真紀としては犯罪者の山内の力を借りることには抵抗があった。早河から、篠山恵子に罠を仕掛けるために佐藤瞬と組めと指示を受けた時も同様に苦悩した。
ハッキングに山内《スパイダー》を使う策を思い付いたのも早河だ。

しかし今は警察官のプライドにこだわっている場合ではない。犯罪者の力を借りてでもダンタリオンの正体を突き止めて事態を終息させなければいけないと、矢野に説得されて渋々承諾した。

「久しぶりのパソコンの感覚はどう?」
『別に何も。少しいじればこの9年でITがどこまで発達したかわかりますからね』

 山内は手慣れたブラインドタッチでキーを打った。
この男の謙遜はただのポーズ。彼は自分の腕に絶対的な自信を持っている。

自分が世を離れている間も発展を続ける文明に少しは狼狽える素振りがあればいいのに、喜怒哀楽の感情を見せない山内が真紀は気に入らなかった。

『顔に出てますよ』
「何が?」
『どうしてこんな所でこんな奴に捜査協力を頼まないといけないんだろう……大方そんな感じですか』
「人の心を勝手に読まないで」

 図星を突かれてそっぽを向いた。山内は指の動きを止めずに口元を斜めにして真紀を一瞥する。

『だから顔に出てるって言ってるじゃないですか。面白い人ですね』
「口を動かさずに手を動かしなさい」
『僕の場合は手と口は同時進行です。それとコーヒーいただけます? カフェインを接種すると作業がはかどります』

 この期に及んでコーヒーを所望するとは、つくづく気に食わない男だ。

ハッキング行為を行う山内の監視は阿部警視監の命令だったが、やりにくい仕事を任されてしまったと真紀は嘆いた。
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