早河シリーズ完結編【魔術師】
 金曜日の夜の道路は車の行き来が多い。道行く人はサイレンを鳴らして走行する警察車両を呆気にとられて見物していた。

『全く。お前にはまんまと騙された』

大西は何故か憮然としている。

『俺がいつお前を騙した?』
『とぼけんな。佐藤だとか服役中のスパイダーだとかと手を組んでたなんて、こっちは聞いてねぇぞ』
『そういえば大西には言ってなかったか』
『何がそういえばだ。アホ。いくら警察庁の刑事局長や官房長官がバックについてるからってやりたい放題やりやがって! ……ああ、そうそう。寮の門限もお前はしれっと破るし俺が大事にとっておいたどら焼きもお前はしれっとした顔で食べちまったし……』

 ぶつくさとボヤく大西の小言は警察学校時代にまで及び、早河は彼に気付かれないように微笑した。
大西とは警察学校の寮で同室だった。

『その佐藤って奴は信用できるのか? 元は貴嶋の手下だった奴だ。カオスを辞めたってのも全部嘘で、こっちに協力するフリしてお前を殺す計画だったり……』
『ありえるかもな』
『そんなサラッと言うなよ。まじに大丈夫なのか?』
『佐藤が貴嶋と対立していようと今も貴嶋の命令に忠実な部下だろうと、正直どっちでもいい。でも佐藤は木村美月を助けようとしている。命懸けでな。それは間違いない』

他がすべて偽りであったとしても佐藤の美月への想いは本物であり、信用に値する。

 車が県道21号線から国道134号線に入った。左手は由比ヶ浜《ゆいがはま》だ。

『ずっと気になってたんだけどさ、お前って貴嶋のことまだ友達だと思ってる?』

早河は助手席の窓を数㎝開けて車内に入り込む風を額に受けていた。

『貴嶋は親父と香道《こうどう》さんを殺した男だ』
『でもその前にお前らはダチだったわけだろ。昔からお前を見てて思ってたんだ。早河の貴嶋に対する感情って何て言うか……親父さんや香道さんの仇でもあるけどそれ以前に、友人として貴嶋をなんとかしてやりたいんじゃないか?』

風に吹かれながら早河は黙っている。彼は左手に見える暗闇に染まる海を眺めて呟いた。

『なんとかしてやりたいのかもしれない。お前の言う通り、貴嶋のことまだ友達だと思ってるんだろうな』
『親父さんと香道さんの仇なのに?』
『だとしても、俺はあいつを救いたい』

早河の決意を胸に刻んだ大西はハンドルを握る手に力をこめた。この道を直進すると例のリゾートホテルに辿り着く。

 早河のスマホがメールの新着を告げた。内容を確認して相手に返信を送る。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 了解。
 そちらは任せる
 ________


 東京と神奈川、二つの場所で迎える終焉の時が刻一刻と迫る。
最後に笑うのは誰? 最後に泣くのは誰?

終焉の終演。最後の審判の始まりだ。
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