早河シリーズ完結編【魔術師】
波のさざめきの旋律が海岸に佇む三人の男女に自然のオーケストラを聴かせる。
佐藤が美月の肩に自分のコートを羽織らせた。彼女は佐藤のコートに袖を通して、段差を一段下に降りる。
男物のコートはサイズが大きすぎて、美月の華奢な身体はすっぽりとコートに包まれていた。
「どうしてこんな所にいるの?」
『少し食後の散歩をね』
貴嶋は悠々と煙草を楽しんでいた。美月の後方で佐藤は貴嶋を見据える。
『バルバトスとアモンと言う名の男達は自殺を図ったようです』
『そうか。あの二人が……。バティンとグレモリーはどうしている?』
『裏口にいた若い男と中国人の女なら、気絶させてホテルの中で拘束しています』
『ははっ。君もやるねぇ』
バルバトスとアモンの最期を知った貴嶋の横顔は寂しげだった。
『私の居場所は夏木会長に教えてもらったのか?』
『ええ。今回のキングの行動には、色々と腑に落ちない点がありました。目立つヒントをばらまいて、俺達に見つかるように動いていたとしか思えない。夏木会長を動かしていたのも、あなたですよね』
『夏木会長には君が私の情報を求めてきた時には協力してやってくれと頼んでいただけさ。あの狸《たぬき》の爺さんも、約束は守る義理堅いとこはあってね』
貴嶋は段差に腰かけたまま語る。美月はまた一段下に降りて、貴嶋と同じ段で立ち止まった。
佐藤と貴嶋の会話は、美月には意味がわからないやりとりだ。紫煙がゆらゆらと潮風に揺れている。
貴嶋は立ち尽くす美月を見上げた。
『どうした? 泣きそうな顔をしているじゃないか。やっと愛する人のお迎えが来たんだ。早くお帰り』
「嫌。まだ帰れない」
逃げられる環境にいても逃げ出さなかったのは何故か、どうして貴嶋をほうっておけないと思ったのか。答えは自明だ。
「ひとりにしたらキングが……死んじゃいそうだから」
貴嶋が両目を見開いた。滅多に動揺を見せない彼には珍しい表情だ。
『美月は私が自殺するとでも思っていたのかな?』
「そうだよ。だって今のキングはふらっとどこかに消えちゃいそうで、弱々しくて、昔のムカつくくらい自信たっぷりなキングとは全然違う。いつ死んでも構わないってそんな投げやりな感じがして……」
突如、貴嶋が笑い出した。笑われたことにムッとした美月が顔をしかめる。
「なんで笑うの? 心配したのに!」
『いやぁ……ごめんね。美月のそういうところが好きなんだよ。君はいつも優しい。私は君の優しさに甘えていたんだ』
貴嶋は携帯灰皿に煙草を捨て、美月の後ろにいる佐藤に目を向けた。
『そうそう、ラストクロウ。ホテルじゃなくこの場所に私がいるとよくわかったね』
『早河真愛の携帯電話を持っていますよね。携帯のGPSの反応がこの海岸を示していました』
『ああ、これか。今は小学生でも携帯を持つ時代になったんだねぇ』
貴嶋のコートのポケットからは、彼が持つには似合わない子ども用の携帯電話が出てきた。佐藤が追ったGPSは早河真愛の携帯のGPSだ。
GPSは片瀬東浜海水浴場で動きを止めていた。
「キングがなんで真愛ちゃんの携帯のGPSを使うの? 居場所がわかっちゃうのに……」
『それが狙いだ。キングはわざと携帯のGPSを作動させた。早河真愛のGPSに最も反応を見せる人間をここに呼び寄せるために……ですよね?』
『君は昔と変わらず優秀だね。さすがだよ』
サイレンの音が近付いてくる。迫ってくるサイレンと車のヘッドライト、チカチカ光る赤い電灯が海岸の前の道で停車した。
佐藤が美月の肩に自分のコートを羽織らせた。彼女は佐藤のコートに袖を通して、段差を一段下に降りる。
男物のコートはサイズが大きすぎて、美月の華奢な身体はすっぽりとコートに包まれていた。
「どうしてこんな所にいるの?」
『少し食後の散歩をね』
貴嶋は悠々と煙草を楽しんでいた。美月の後方で佐藤は貴嶋を見据える。
『バルバトスとアモンと言う名の男達は自殺を図ったようです』
『そうか。あの二人が……。バティンとグレモリーはどうしている?』
『裏口にいた若い男と中国人の女なら、気絶させてホテルの中で拘束しています』
『ははっ。君もやるねぇ』
バルバトスとアモンの最期を知った貴嶋の横顔は寂しげだった。
『私の居場所は夏木会長に教えてもらったのか?』
『ええ。今回のキングの行動には、色々と腑に落ちない点がありました。目立つヒントをばらまいて、俺達に見つかるように動いていたとしか思えない。夏木会長を動かしていたのも、あなたですよね』
『夏木会長には君が私の情報を求めてきた時には協力してやってくれと頼んでいただけさ。あの狸《たぬき》の爺さんも、約束は守る義理堅いとこはあってね』
貴嶋は段差に腰かけたまま語る。美月はまた一段下に降りて、貴嶋と同じ段で立ち止まった。
佐藤と貴嶋の会話は、美月には意味がわからないやりとりだ。紫煙がゆらゆらと潮風に揺れている。
貴嶋は立ち尽くす美月を見上げた。
『どうした? 泣きそうな顔をしているじゃないか。やっと愛する人のお迎えが来たんだ。早くお帰り』
「嫌。まだ帰れない」
逃げられる環境にいても逃げ出さなかったのは何故か、どうして貴嶋をほうっておけないと思ったのか。答えは自明だ。
「ひとりにしたらキングが……死んじゃいそうだから」
貴嶋が両目を見開いた。滅多に動揺を見せない彼には珍しい表情だ。
『美月は私が自殺するとでも思っていたのかな?』
「そうだよ。だって今のキングはふらっとどこかに消えちゃいそうで、弱々しくて、昔のムカつくくらい自信たっぷりなキングとは全然違う。いつ死んでも構わないってそんな投げやりな感じがして……」
突如、貴嶋が笑い出した。笑われたことにムッとした美月が顔をしかめる。
「なんで笑うの? 心配したのに!」
『いやぁ……ごめんね。美月のそういうところが好きなんだよ。君はいつも優しい。私は君の優しさに甘えていたんだ』
貴嶋は携帯灰皿に煙草を捨て、美月の後ろにいる佐藤に目を向けた。
『そうそう、ラストクロウ。ホテルじゃなくこの場所に私がいるとよくわかったね』
『早河真愛の携帯電話を持っていますよね。携帯のGPSの反応がこの海岸を示していました』
『ああ、これか。今は小学生でも携帯を持つ時代になったんだねぇ』
貴嶋のコートのポケットからは、彼が持つには似合わない子ども用の携帯電話が出てきた。佐藤が追ったGPSは早河真愛の携帯のGPSだ。
GPSは片瀬東浜海水浴場で動きを止めていた。
「キングがなんで真愛ちゃんの携帯のGPSを使うの? 居場所がわかっちゃうのに……」
『それが狙いだ。キングはわざと携帯のGPSを作動させた。早河真愛のGPSに最も反応を見せる人間をここに呼び寄せるために……ですよね?』
『君は昔と変わらず優秀だね。さすがだよ』
サイレンの音が近付いてくる。迫ってくるサイレンと車のヘッドライト、チカチカ光る赤い電灯が海岸の前の道で停車した。