早河シリーズ完結編【魔術師】
絶句する千秋は、震える手で紙を引き裂いて粉々に破り捨てた。紙吹雪が舞う中、千秋は真紀を睨み付ける。
「真紀さんはこんなものを信じるんですか? 全部私に罪を擦り付けるための陰謀ですよ」
ここまで来ても自分がダンタリオンであると認めない千秋に、真紀は最後の追い討ちをかけた。
「この告発文はファンサイトのハッキングに成功しなければ現れない。貴嶋は誰かがあのファンサイトの存在に気付いてハッキングを成し遂げてくれると賭け、サイトの管理人のあなたに気付かれないようこの告発文を仕掛けた」
告発文に辿り着いたのは貴嶋の読み通り、犯罪組織カオスのスパイダーの異名を持つ山内慎也だった。
今回の貴嶋のSOSの方法は、9年前のカオス壊滅時に山内がハッキングのトラップに仕掛けた細工と似ていると矢野一輝が指摘した。
9年前は山内のハッキングパターンの解析を担当した矢野が、仕込まれた山内のSOSに気付いた。その山内が9年後に似た形で貴嶋のSOSに気付いた。
必ず、その小さな綻びから真相に気付く者が現れると見越して。
最初にダンタリオンのファンサイトの存在に気付いたのは、貴嶋に兄を殺されたなぎさ。
確実にハッキングを成功させるために、山内へのハッキングの依頼を働きかけたのは早河だ。
貴嶋の一縷の望みを受け取ったのは、図らずも彼との因縁が深い早河となぎさだった。
「あなたは自分の力を過信していた。セキュリティが破られることはないと高を括《くく》っていた。でもスパイダーは、あなたのご自慢のセキュリティを破ってハッキングを成功させ、貴嶋もあなたに知られないようサイトに仕掛けを施した。あちらの方が一枚上だったのよ」
「……黙れ。黙れ黙れ黙れっ!」
とうとう本性を剥き出しにした千秋が地団駄を踏む。衝撃で車が横に揺れ、叫び声をあげた千秋が真紀に襲いかかった。
千秋の両手が真紀の首を強く掴む。二人の女の取っ組み合いを止めようと、運転席の扉が開いて、刑事が数人がかりで千秋を車から引きずり降ろした。
千秋を取り押さえたのは地下駐車場で待機していた捜査本部の刑事達。すべて早河と真紀の計画通りだ。
『小山さん! 大丈夫ですかっ』
助手席の扉を開けて真紀を救出した杉浦刑事が、ふらつく彼女を支えた。
「大丈夫。ありがとう」
軽く咳き込んで目眩もしたが、体に受けた衝撃よりも部下だった千秋の豹変した姿を目の当たりにしたショックが大きい。
千秋は取り押さえられてもまだ暴れていた。彼女を取り囲む刑事の中には、千秋の同僚の芳賀敬太もいる。芳賀は悲痛な面持ちで千秋を見つめていた。
「真紀さんはこんなものを信じるんですか? 全部私に罪を擦り付けるための陰謀ですよ」
ここまで来ても自分がダンタリオンであると認めない千秋に、真紀は最後の追い討ちをかけた。
「この告発文はファンサイトのハッキングに成功しなければ現れない。貴嶋は誰かがあのファンサイトの存在に気付いてハッキングを成し遂げてくれると賭け、サイトの管理人のあなたに気付かれないようこの告発文を仕掛けた」
告発文に辿り着いたのは貴嶋の読み通り、犯罪組織カオスのスパイダーの異名を持つ山内慎也だった。
今回の貴嶋のSOSの方法は、9年前のカオス壊滅時に山内がハッキングのトラップに仕掛けた細工と似ていると矢野一輝が指摘した。
9年前は山内のハッキングパターンの解析を担当した矢野が、仕込まれた山内のSOSに気付いた。その山内が9年後に似た形で貴嶋のSOSに気付いた。
必ず、その小さな綻びから真相に気付く者が現れると見越して。
最初にダンタリオンのファンサイトの存在に気付いたのは、貴嶋に兄を殺されたなぎさ。
確実にハッキングを成功させるために、山内へのハッキングの依頼を働きかけたのは早河だ。
貴嶋の一縷の望みを受け取ったのは、図らずも彼との因縁が深い早河となぎさだった。
「あなたは自分の力を過信していた。セキュリティが破られることはないと高を括《くく》っていた。でもスパイダーは、あなたのご自慢のセキュリティを破ってハッキングを成功させ、貴嶋もあなたに知られないようサイトに仕掛けを施した。あちらの方が一枚上だったのよ」
「……黙れ。黙れ黙れ黙れっ!」
とうとう本性を剥き出しにした千秋が地団駄を踏む。衝撃で車が横に揺れ、叫び声をあげた千秋が真紀に襲いかかった。
千秋の両手が真紀の首を強く掴む。二人の女の取っ組み合いを止めようと、運転席の扉が開いて、刑事が数人がかりで千秋を車から引きずり降ろした。
千秋を取り押さえたのは地下駐車場で待機していた捜査本部の刑事達。すべて早河と真紀の計画通りだ。
『小山さん! 大丈夫ですかっ』
助手席の扉を開けて真紀を救出した杉浦刑事が、ふらつく彼女を支えた。
「大丈夫。ありがとう」
軽く咳き込んで目眩もしたが、体に受けた衝撃よりも部下だった千秋の豹変した姿を目の当たりにしたショックが大きい。
千秋は取り押さえられてもまだ暴れていた。彼女を取り囲む刑事の中には、千秋の同僚の芳賀敬太もいる。芳賀は悲痛な面持ちで千秋を見つめていた。