早河シリーズ完結編【魔術師】
『美月が気持ちに気付いたとしても、あなたを拒絶はしないと思います。これからも変わらず接してくれるはずですよ』
『そうやって、お前があの子のことをわかった風に言うと益々腹が立つな』
『好きな女に関することには、知ったかぶりもしたくなるものです』

 互いに苦笑いの後についた深い溜息。

『でも一番の美月の理解者は木村くんですよ。俺も木村くんには嫉妬してもキリがないくらい嫉妬しています』
『だろうな。木村くんは大した男だよ。俺もお前も彼には敵わない。……まったく。なんて話をしているんだか』

 中年の男二人が、一回り以上も年下の女に心を掻き乱されている。そんな話を聞けばお前達は何をやっているんだと、呆れる者もいるだろう。
それも仕方がない。恋にも愛にも年齢は関係がない。これが、恋なのだ。

 早河が美月を病院に送る時間になった。美月は、鎌倉警察署の玄関先まで見送りに訪れた上野を振り返る。

『ごめんね。本当は東京まで送ってあげたいけど俺はここを離れられなくて』
「上野さん、さっきから謝ってばかりですよ?」
『えっ? ごめん……あ、また……』

上野を見て美月が笑う。悔しいが佐藤の言った通りだった。上野の気持ちに気付いていても、美月は上野を慕っている。それでいい。

「佐藤さんのこと、よろしくお願いします」

 涙の跡が残る目元で愛らしく微笑む美月の頭上では、満ちていく白い月が気高く輝いていた。

 この想いが彼女に届かなくても。
せめて彼女の幸せが永久に続きますように。

ただひとりの月影の女性よ。どうかどうか永久にあれ。

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