早河シリーズ完結編【魔術師】
「スパイダーと接触して、貴嶋がどうして多くの部下に崇められていたか、わかった気がする。あなた達のように貴嶋を神格化している部下もいたでしょうね。だけど前のカオス幹部、少なくとも佐藤やスパイダーは貴嶋を神とは思っていなかったはずよ」
府中刑務所で山内慎也と交わした会話を真紀はひとつひとつ思い浮かべた。
千秋達を次世代の犯罪組織カオスとすれば、スパイダーの山内慎也と佐藤瞬は犯罪組織カオスの旧幹部。
山内と佐藤は貴嶋佑聖が作り上げた“本物の犯罪組織カオス”のメンバーだ。
「佐藤もスパイダーも貴嶋を主としてだけではなく、仲間……いえ、友人として慕っていた。貴嶋も側近達は大切にしていたそうよ。私には理解できないことも多いけれど、それが彼らなりの友情だったのね。でもあなたは違う」
次世代犯罪組織カオスは寄せ集めのかりそめの集団。千秋にも他のメンバーにも仲間意識はなかったのかもしれない。
「あなたは、あのリゾートホテルに仕掛けた爆弾で貴嶋と美月ちゃんを殺そうとした。ホテルにいたあなたの仲間達にも爆弾の存在は知らされていなかった。あなたは貴嶋や美月ちゃんだけでなく、仲間までも殺そうとした」
「私に仲間はいない。仲間なんかいらない」
鋭い眼光で千秋は真紀を睨み付けた。
「貴嶋はあなたのために生きていたわけじゃない。あなたは自分の孤独を貴嶋に押し付けていただけ。自分が孤独だから貴嶋にも孤独でいて欲しいなんて、ワガママで身勝手な子どもの言い分ね」
「うるさいっ!」
「だからキングになれなかったのよ。あなたがキングになれなかったのは、女だからじゃない。誰も必要としていなかったからよ。あなたは自分しか信じていない。そうやって私は独りですって顔をして孤独に酔いしれている」
「……黙れ!」
千秋は拳で机を何度も叩いて乱暴に立ち上がった。反動で椅子が大きな音を立てて横に倒れる。
千秋が怒鳴っても喚《わめ》いても真紀は平然としていた。
「座りなさい。まだ聴取は続いているのよ」
真紀に窘《たしな》められ、千秋は舌打ちして上野が元に戻した椅子に座り直す。憮然とした彼女は真紀から顔を背けた。
真紀は上野と目を合わせた。上野の黙諾を見届けて彼女は席を立つ。しばらく休憩だ。
取調室を出ようとした真紀は振り向いて、もう一度千秋に問いかける。
「本当に貴嶋のこと、愛していなかったの?」
「愛なんか……私は知らない。必要もない」
それっきり千秋は口を閉ざした。真一文字に結ばれた震えた唇が、決して認めたくない感情の表れのように真紀には思えた。
土屋千秋は愛を知らない人間だった。
府中刑務所で山内慎也と交わした会話を真紀はひとつひとつ思い浮かべた。
千秋達を次世代の犯罪組織カオスとすれば、スパイダーの山内慎也と佐藤瞬は犯罪組織カオスの旧幹部。
山内と佐藤は貴嶋佑聖が作り上げた“本物の犯罪組織カオス”のメンバーだ。
「佐藤もスパイダーも貴嶋を主としてだけではなく、仲間……いえ、友人として慕っていた。貴嶋も側近達は大切にしていたそうよ。私には理解できないことも多いけれど、それが彼らなりの友情だったのね。でもあなたは違う」
次世代犯罪組織カオスは寄せ集めのかりそめの集団。千秋にも他のメンバーにも仲間意識はなかったのかもしれない。
「あなたは、あのリゾートホテルに仕掛けた爆弾で貴嶋と美月ちゃんを殺そうとした。ホテルにいたあなたの仲間達にも爆弾の存在は知らされていなかった。あなたは貴嶋や美月ちゃんだけでなく、仲間までも殺そうとした」
「私に仲間はいない。仲間なんかいらない」
鋭い眼光で千秋は真紀を睨み付けた。
「貴嶋はあなたのために生きていたわけじゃない。あなたは自分の孤独を貴嶋に押し付けていただけ。自分が孤独だから貴嶋にも孤独でいて欲しいなんて、ワガママで身勝手な子どもの言い分ね」
「うるさいっ!」
「だからキングになれなかったのよ。あなたがキングになれなかったのは、女だからじゃない。誰も必要としていなかったからよ。あなたは自分しか信じていない。そうやって私は独りですって顔をして孤独に酔いしれている」
「……黙れ!」
千秋は拳で机を何度も叩いて乱暴に立ち上がった。反動で椅子が大きな音を立てて横に倒れる。
千秋が怒鳴っても喚《わめ》いても真紀は平然としていた。
「座りなさい。まだ聴取は続いているのよ」
真紀に窘《たしな》められ、千秋は舌打ちして上野が元に戻した椅子に座り直す。憮然とした彼女は真紀から顔を背けた。
真紀は上野と目を合わせた。上野の黙諾を見届けて彼女は席を立つ。しばらく休憩だ。
取調室を出ようとした真紀は振り向いて、もう一度千秋に問いかける。
「本当に貴嶋のこと、愛していなかったの?」
「愛なんか……私は知らない。必要もない」
それっきり千秋は口を閉ざした。真一文字に結ばれた震えた唇が、決して認めたくない感情の表れのように真紀には思えた。
土屋千秋は愛を知らない人間だった。