早河シリーズ完結編【魔術師】
 明美の視線に見送られて、真愛を乗せた車が発進した。彼女の熱っぽい視線は最後まで変わらなかった。

 途中に寄ったコンビニで缶コーヒーと真愛用のココアとお菓子を買い、なぎさと息子の待つ産婦人科までしばしのドライブ。

「真愛、さたけ先生のことあんまり好きじゃない」

助手席の真愛はストローを差した紙パックのココアを小さな手で抱えている。早河は真愛の意外な言葉に驚いた。

『一年生の時は佐竹先生のこと好きだっただろ』
「一年生の時は好きだったけど、今は好きじゃないの」

 真愛は拗ねた表情で口を尖らせ、尖らせた口元でいちごポッキーをかじった。
このくらいの年頃の女の子は、些細な出来事で好き嫌いが変わる。しかし一年生の時に好きだった担任教師を一年後に嫌いになるものか?

「だって、さたけ先生はパパが好きだから」

真愛の次の一言は早河を放心させるだけの威力があった。

『パパが好きって……佐竹先生が?』
「うん」
『真愛、嘘はついちゃダメだって言ったよね?』
「嘘じゃないもんっ。さたけ先生はね、パパが好きなんだよ」

 風船のように両方の頬をぷくっと膨らませた真愛が運転席に手を伸ばして、早河のスーツの裾を引っ張った。

『どうして佐竹先生がパパを好きだって思うんだ?』
「そんなの、“おんなのかん”に決まってるでしょぉっ!」

 ココアを勢いよく飲み、いちご味のポッキーを頬張る真愛は事も無げに言った。小学二年生で女の勘を語る真愛はやはり末恐ろしい。

だが、“女の勘”が侮れないことを早河は長年の経験で心得ている。時として、女の勘は刑事や探偵の勘よりも恐ろしいことも。

『だけど真愛は佐竹先生に匠が産まれたことを話したんだろ?』
「え? さたけ先生には話してないよ。わかばやし先生と、隣のクラスのえんどう先生にはお話ししたけど」

真愛はきょとんとした顔で首を横に振った。

『ふーん。そうか……』

 さも自分が真愛から話を聞いたような言い方をした明美の態度が引っ掛かる。真愛がピンク色のポッキーを一本くれた。ストロベリーチョコレートの甘い味がする。

「みんなね、真愛のパパはかっこいいって言うの。サトちゃんもアキホちゃんもユズカちゃんもリコちゃんのママも言ってた。パパはみんなからモテモテなんだよ」
『はぁ……』

早河はどう答えていいかわからずに生返事をして、いちごポッキーをもごもごと咀嚼した。
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