早河シリーズ完結編【魔術師】
11月27日(Tue)

 昨日の大失態を避けるべく今朝は真愛よりも先に起床した。
火曜日の朝は薄曇りの空だった。日に日に寒さが厳しくなり、あと数日で12月が訪れる。

真愛が早起きができたご褒美として頬にキスをしてくれた。昨夜の有紗からの頬にキスには少なからず狼狽したが、真愛からのご褒美のキスには嬉しくて頬が緩む。

 今朝のメニューはピザトーストと市販のポタージュスープ。
ピザソースを塗った厚切りのトーストの上にはウインナー、ピーマン、コーンがのっていて、マヨネーズとトロリととろけたチーズが食欲をそそる。

 朝食を食べている最中、テレビから朝のニュースが流れた。イケメン若手ニュースキャスターと騒がれている男性キャスターがニュースの原稿を読み上げる。

{昨夜午後9時頃、東京都板橋区の路上にいた不審な男にパトロール中の警察官が職務質問をしたところ、男は都内で相次いでいる女子児童連続切りつけ事件の犯人であると名乗り出ました。警察は男をその場で緊急逮捕し……}

テレビには月曜日の切り裂きジャック逮捕と赤い文字のテロップが表示され、逮捕現場の板橋区の路地が映されていた。

{逮捕されたのは都内の高校に通う16歳の少年で、少年は今年3月から4月にかけて東京で発生した風俗店勤務の女性四人を殺害した連続殺人事件に影響を受けて事件を模倣するつもりで犯行に及んだと供述しており……}

真愛には聞かせたくないニュースだが、真愛はニュースには目もくれずにせっせとピザトーストにかぶりついている。

 ニュースで挙げられた事件は今年の3月から4月に起きたデリヘル嬢連続殺人事件。(※)
四人の被害女性は二十代から三十代、全員がデリバリーヘルスの仕事をしていた。

19世紀のイギリスで起きた切り裂きジャック事件の被害者達も売春婦だったことから、犯人は〈21世紀の切り裂きジャック〉の異名で呼ばれ、SNSにはその異名の成り済ましアカウントが横行した。
(※後継シリーズ【〜Midnight Eden〜 episode1.春雷】の事件)


 今回の切りつけ魔〈月曜日の切り裂きジャック〉は16歳の少年。彼は21世紀の切り裂きジャックに感銘を受け、後々は21世紀の切り裂きジャックと同様に殺人を犯すつもりだった。

その前の予行演習で十代の少女達を切りつけていたのだ。もし逮捕が一日でも遅くなれば、少女の惨殺死体がこの街に転がっていたかもしれない。
その被害者が真愛であったかもしれない。

「パパ、どうしたの?」
『ん? ……なんでもないよ』

 早河は笑って見せたが、表情は固い。

 快楽殺人の対象はいつの時代も女と子ども。21世紀の切り裂きジャックに殺された女性達も、被害者が性的サービスの仕事をしていたとしてそれで殺されていい理由にはならない。

犯罪組織カオスが壊滅しようとも、この大都会では胸糞悪い事件が絶えない。まだこの街は犯罪という名の暗雲に包まれている。

「悪いことをしたらバチが当たるのに、どうしてみんな悪いことをするんだろうね」

 ニュースに無関心だと思っていた真愛が突然口にした言葉が、早河をハッとさせる。子どもは見ていないようで世の中をちゃんと見ている。
これが月曜日の切り裂きジャックに対する真愛なりの見解だ。

 真愛の言う通りだ。どうして人間は、してはダメだとわかっていても犯罪を犯す?
こんな疑問をあの男……貴嶋佑聖にぶつければ、きっと奴は笑ってこう答えるに違いない。

 ──“人間だから犯罪を犯すんですよ”── と。

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