早河シリーズ完結編【魔術師】
真愛は今日も元気に東中野小学校に登校した。学校の正門の前では教師達が笑顔で生徒と挨拶を交わしている。しかし今日は、何かおかしい。
いつもは正門に立っている校長先生がいない。挨拶をする数人の教師の顔もぎこちなく、下駄箱の前もざわついていた。
廊下で泣いている女子児童もいる。
学校の異変に友人の里美と首を傾げながら、2年生の下駄箱に靴を入れようとした真愛のもとに同じクラスの秋帆《あきほ》が駆け寄ってきた。
「秋帆ちゃん、おはよー。学校で何かあったの?」
「うん。うさぎ小屋のうさぎがね、死んじゃったの」
「……うさぎが?」
真愛はクラスの生き物係を担当していて、うさぎの餌やりも行っている。
うさぎが死んだ? どうして、どうして?
「先生達が話してるの聞いちゃった。うさぎがお腹切られて死んでたんだって。警察の人が来て、今調べてるみたいだよ」
「お腹を……切られて……?」
意味がわからなかった。昨日はあんなに元気だったあの子達が死んでしまった?
「……行ってくる」
「えっ……真愛ちゃん! ダメだよ!」
「先生に怒られちゃうよ!」
秋帆と里美の制止も聞かずに真愛は下駄箱を飛び出して外のうさぎ小屋まで走った。グラウンドに面した庭の隅に、うさぎ小屋とニワトリ小屋がある。
小屋の周りはカラーコーンと黄色いテープで囲われていて、側に立つ警官が真愛の侵入を防いだ。
『入っちゃダメだよ』
「うさぎさんは? ねぇ……うさぎさんは?」
警官に阻まれてそれ以上先へは行かせてもらえない。でもわかったことがある。
うさぎは本当に死んでしまった。現場を見なくても、真愛は直感的にそう思った。
*
キッチンのカウンターに置きっぱなしにしていたスマートフォンが着信した。真愛を送り出してひとりの時間を満喫していた早河は、スマホの表示に怪訝な顔をする。
着信表示は真愛。学校に持たせている真愛の携帯電話からかかってきていた。
もう学校に着いている時間だ。忘れ物でもしたのだろうか。
『真愛? どうした?』
{……パパぁ……}
電話の向こうで涙声の真愛が早河を呼んでいた。
『おい真愛? 大丈夫か? 何があった?』
{うさぎさんが……うさぎがね……}
真愛は泣きながら咳き込んでいる。これはただ事ではない。
{死んじゃったの……。お腹切られて……うさぎさん……死んじゃったの……}
途切れ途切れに聞こえた真愛の説明で状況の把握はできた。学校で飼育しているうさぎが何者かに腹を切られて殺害された……ということらしい。
真愛は動物の中でもうさぎが大好きだ。数あるぬいぐるみの中でも、特にお気に入りのぬいぐるみもうさぎ。
学校の生き物係になって、うさぎの世話をする真愛はとても楽しそうだった。
可愛がっていたうさぎが死んだことで誘発的にPTSDの発作が引き起こされた可能性がある。
『真愛、パパがすぐに学校行くから待ってろ。苦しかったら先生かお友達に保健室に連れて行ってもらいなさい。絶対にひとりになるなよ。いいな?』
着替える余裕もなく部屋着にコートを羽織っただけの格好で早河は玄関を飛び出した。
いつもは正門に立っている校長先生がいない。挨拶をする数人の教師の顔もぎこちなく、下駄箱の前もざわついていた。
廊下で泣いている女子児童もいる。
学校の異変に友人の里美と首を傾げながら、2年生の下駄箱に靴を入れようとした真愛のもとに同じクラスの秋帆《あきほ》が駆け寄ってきた。
「秋帆ちゃん、おはよー。学校で何かあったの?」
「うん。うさぎ小屋のうさぎがね、死んじゃったの」
「……うさぎが?」
真愛はクラスの生き物係を担当していて、うさぎの餌やりも行っている。
うさぎが死んだ? どうして、どうして?
「先生達が話してるの聞いちゃった。うさぎがお腹切られて死んでたんだって。警察の人が来て、今調べてるみたいだよ」
「お腹を……切られて……?」
意味がわからなかった。昨日はあんなに元気だったあの子達が死んでしまった?
「……行ってくる」
「えっ……真愛ちゃん! ダメだよ!」
「先生に怒られちゃうよ!」
秋帆と里美の制止も聞かずに真愛は下駄箱を飛び出して外のうさぎ小屋まで走った。グラウンドに面した庭の隅に、うさぎ小屋とニワトリ小屋がある。
小屋の周りはカラーコーンと黄色いテープで囲われていて、側に立つ警官が真愛の侵入を防いだ。
『入っちゃダメだよ』
「うさぎさんは? ねぇ……うさぎさんは?」
警官に阻まれてそれ以上先へは行かせてもらえない。でもわかったことがある。
うさぎは本当に死んでしまった。現場を見なくても、真愛は直感的にそう思った。
*
キッチンのカウンターに置きっぱなしにしていたスマートフォンが着信した。真愛を送り出してひとりの時間を満喫していた早河は、スマホの表示に怪訝な顔をする。
着信表示は真愛。学校に持たせている真愛の携帯電話からかかってきていた。
もう学校に着いている時間だ。忘れ物でもしたのだろうか。
『真愛? どうした?』
{……パパぁ……}
電話の向こうで涙声の真愛が早河を呼んでいた。
『おい真愛? 大丈夫か? 何があった?』
{うさぎさんが……うさぎがね……}
真愛は泣きながら咳き込んでいる。これはただ事ではない。
{死んじゃったの……。お腹切られて……うさぎさん……死んじゃったの……}
途切れ途切れに聞こえた真愛の説明で状況の把握はできた。学校で飼育しているうさぎが何者かに腹を切られて殺害された……ということらしい。
真愛は動物の中でもうさぎが大好きだ。数あるぬいぐるみの中でも、特にお気に入りのぬいぐるみもうさぎ。
学校の生き物係になって、うさぎの世話をする真愛はとても楽しそうだった。
可愛がっていたうさぎが死んだことで誘発的にPTSDの発作が引き起こされた可能性がある。
『真愛、パパがすぐに学校行くから待ってろ。苦しかったら先生かお友達に保健室に連れて行ってもらいなさい。絶対にひとりになるなよ。いいな?』
着替える余裕もなく部屋着にコートを羽織っただけの格好で早河は玄関を飛び出した。