早河シリーズ完結編【魔術師】
殺人事件の現場は刑事時代に何度も見てきた。人間だろうと動物だろうと、命が惨《むご》たらしく奪われた現場に居るといつも憂鬱な気分に襲われる。
今回は特に憂鬱だ。その理由をまだ認めたくなくて、彼はかぶりを振って小屋から出た。
うさぎ小屋の隣のニワトリ小屋ではニワトリ達が自由気ままに小屋の中を行き来していた。
薄緑色の作業着を着た中年の男が警官に連れられて歩いてくる。うさぎの死体の第一発見者の用務員だ。
彼は大倉《おおくら》と名乗った。
大倉は事件現場を堂々と調べ回る早河を刑事だと思い込んでいる。
かっちりした印象のポロコートに隠れた部屋着は毛玉付きのトレーナーにジーンズ、使い古したスニーカー。こんなラフな格好で事件現場に出入りする刑事はまずいない。
しかし話を聞くには用務員の思い込みを訂正しない方が都合がいい。
大倉の話では今朝7時に出勤して学校の見回りをしていた時に、飼育小屋でうさぎの死体を発見。
小屋の鍵を取りに職員室に向かうと朝当番だった佐竹明美教諭と遭遇、明美と共に鍵を持って小屋に入り、うさぎの死亡を確認した。
一連の流れに不審な点はない。
『うさぎの死体を発見した時に気付いたことはありますか? 普段と違っただとか、疑問に思われたことがあればなんでも話してください』
早河に聞かれた大倉は顎を掻いて眉間にシワを刻んだ。
『普段と違うと言えばニワトリが騒いでいたなぁ……』
『うさぎ小屋の隣の?』
『はい。自分が最初にここでうさぎの死骸を見つけた時、ニワトリ達は今みたいに大人しかったんです。でもその後に鍵を持ってここに来て、うさぎ小屋に近付こうとすると一斉にニワトリがこう、羽をバタバタさせて呻くように鳴いたんです。敵を威嚇するような……。自分はここの用務員を務めて6年になりますがニワトリがあんな風に騒ぐのは初めて見ました』
うさぎ小屋の隣のニワトリ小屋では、鳴き声をあげる者、餌を食べる者、歩き回る者、ニワトリ達はそれぞれが穏やかな時間を過ごしている。
『鍵を持って来た時と言うと、佐竹先生と一緒に来た時ですね?』
『そうです。うさぎ小屋の異変に気付いて、ニワトリも気が立っていたのかもしれません』
大倉が最初にうさぎの死体を発見した時には大人しかったニワトリが、次には威嚇するように騒いでいた。
大倉が去った後、早河はニワトリ小屋の前で身を屈める。
『……黒田。お前や鑑識がうさぎ小屋に入った時、ニワトリは騒いだか?』
『いいえ。今みたいにコケコッコと鳴いてるだけで特に騒がしい様子はありませんでしたよ。それが何か?』
黒田の返答を聞いて、ぼんやりとしていた事件の様相が早河にはハッキリ見えてきた。
だが、まだわからない点がある。犯人は何故こんなことを?
今回は特に憂鬱だ。その理由をまだ認めたくなくて、彼はかぶりを振って小屋から出た。
うさぎ小屋の隣のニワトリ小屋ではニワトリ達が自由気ままに小屋の中を行き来していた。
薄緑色の作業着を着た中年の男が警官に連れられて歩いてくる。うさぎの死体の第一発見者の用務員だ。
彼は大倉《おおくら》と名乗った。
大倉は事件現場を堂々と調べ回る早河を刑事だと思い込んでいる。
かっちりした印象のポロコートに隠れた部屋着は毛玉付きのトレーナーにジーンズ、使い古したスニーカー。こんなラフな格好で事件現場に出入りする刑事はまずいない。
しかし話を聞くには用務員の思い込みを訂正しない方が都合がいい。
大倉の話では今朝7時に出勤して学校の見回りをしていた時に、飼育小屋でうさぎの死体を発見。
小屋の鍵を取りに職員室に向かうと朝当番だった佐竹明美教諭と遭遇、明美と共に鍵を持って小屋に入り、うさぎの死亡を確認した。
一連の流れに不審な点はない。
『うさぎの死体を発見した時に気付いたことはありますか? 普段と違っただとか、疑問に思われたことがあればなんでも話してください』
早河に聞かれた大倉は顎を掻いて眉間にシワを刻んだ。
『普段と違うと言えばニワトリが騒いでいたなぁ……』
『うさぎ小屋の隣の?』
『はい。自分が最初にここでうさぎの死骸を見つけた時、ニワトリ達は今みたいに大人しかったんです。でもその後に鍵を持ってここに来て、うさぎ小屋に近付こうとすると一斉にニワトリがこう、羽をバタバタさせて呻くように鳴いたんです。敵を威嚇するような……。自分はここの用務員を務めて6年になりますがニワトリがあんな風に騒ぐのは初めて見ました』
うさぎ小屋の隣のニワトリ小屋では、鳴き声をあげる者、餌を食べる者、歩き回る者、ニワトリ達はそれぞれが穏やかな時間を過ごしている。
『鍵を持って来た時と言うと、佐竹先生と一緒に来た時ですね?』
『そうです。うさぎ小屋の異変に気付いて、ニワトリも気が立っていたのかもしれません』
大倉が最初にうさぎの死体を発見した時には大人しかったニワトリが、次には威嚇するように騒いでいた。
大倉が去った後、早河はニワトリ小屋の前で身を屈める。
『……黒田。お前や鑑識がうさぎ小屋に入った時、ニワトリは騒いだか?』
『いいえ。今みたいにコケコッコと鳴いてるだけで特に騒がしい様子はありませんでしたよ。それが何か?』
黒田の返答を聞いて、ぼんやりとしていた事件の様相が早河にはハッキリ見えてきた。
だが、まだわからない点がある。犯人は何故こんなことを?