早河シリーズ完結編【魔術師】
 シトリーは集団自殺事件が起きるたびに、その時に使用していたツイッターアカウントを削除して新しいアカウントを作り、新しいアカウントからまた自殺志願者を募る。

シトリーはネット上で名乗る名前も常に変えている。膨大なSNSの海でシトリーのアカウントを探すことは困難だった。

 現在のシトリーのツイッターを特定するには、警察側も未成年者の自殺志願者を装いツイッターを開設してシトリーを誘《おび》き寄せるしかない。

矢野が仕掛けた罠は功を奏し、未成年者の自殺志願者を装った矢野のツイッターアカウントにシトリーがダイレクトメッセージを送ってきた。

 ダイレクトメッセージにはURLが添付されていた。URLを開くと新宿区の映画館を指定して〈1月24日水曜14時集合〉と記載してある。

時間や場所の相違はあるが、自殺した未成年者達が自殺する直前にシトリーから受け取ったメッセージと内容は同じだった。自殺志願者達はこうして集められ、自殺の現場に連れて行かれたのだと推測できる。

 矢野にダイレクトメッセージを送ってきたツイッターアカウントのIPアドレスからプロバイダーにIPアドレスの情報開示を求め、住所と氏名の割り出しに成功した。

シトリーのアカウント所有者は小柳岳、20歳の男子大学生。板橋区の都営住宅に両親と三人で暮らしている。

『でも俺達がシトリーが小柳だと突き止めたのとほぼ同時期に小柳が雲隠れっておかしくないですか? こちらの情報が筒抜けになっている気がします』
『確かにな。小柳は日曜から家にも帰ってない。大学にもバイト先にも現れていない』

 杉浦の発言を肯定して上野はぬるくなった缶コーヒーをすする。プロバイダーから小柳の情報を得たのが1月21日の日曜日。

その日から警察は小柳の自宅とバイト先の張り込みを開始したが、小柳が自宅に帰った様子はなかった。月曜日になっても大学とバイト先にも姿を見せなかった。

『まさかとは思いますが、両親が小柳と連絡を取り合って息子を逃がしたなんてことは……。母親は小柳を溺愛している様子でしたし』
『その可能性もなきにしもあらず、だな』

 小柳が未成年者集団自殺事件への関与の疑いがあると知らされた母親は、息子はそんなことはしないとヒステリックにわめいていた。
< 31 / 244 >

この作品をシェア

pagetop