早河シリーズ完結編【魔術師】
1月24日(Wed)午前1時

 夜更けのこの時間は空気がとても冷たい。
ベッドに横になる早河仁の隣では、妻のなぎさが真愛が大事にしているウサギのぬいぐるみを抱き締めて眠っていた。真愛が誘拐されてから、なぎさの神経はずっと張り詰めていた。眠れる時に寝かせてやりたい。

 早河は寝室を抜け出して廊下の向かい側の部屋に入る。ここは真愛の部屋だ。
小学校に上がったタイミングで与えた娘の自室には真愛の宝物が溢れていた。

勉強机には小学1年生の教科書とノート、色鉛筆と色ペンが立てられたペン立て。色鉛筆と絵の具はいつも赤色と黄色が最初になくなると言っていた。

 可愛いレターセットコレクションが入るハート模様のケース、ベッドに沢山置かれたぬいぐるみ。
この部屋は真愛の物で溢れているのに真愛だけがいない。主のいない室内は外の空気にも増してひんやりとして寒々しかった。

 早河が真愛のベッドに腰掛けて並んだぬいぐるみを眺めていると、手元のスマートフォンの画面が明るくなった。捜査の進展を知らせる連絡がいつ入るかわからないため、スマホは肌身離さず持っている。

着信中の画面には警察ではなく非通知の文字が表示されている。非通知で電話をかけてくる人間には数名心当たりがあるが、今夜の非通知の主はその誰も当てはまらない、別の人間の予感があった。

『はい』
{……早河さんですね}

非通知の主は聞き覚えのない男の声だ。

『誰だ?』
{ラストクロウ……そう言えばお分かりですよね?}
『……佐藤瞬か』
{ええ。佐藤瞬の名は12年前に捨てましたが}

 静まり返る深夜の自宅は物音がよく響く。電話の内容は隣室で眠るなぎさには、まだ聞かせられない。
早河は真愛の部屋を出て静かに階下に降りた。

『生きているかもとは思っていた。まさか本当に予感が当たるとはな』
{私の生存にいち早く気付く者がいるとしたら、あなただろうと思っていました}
『買い被られたものだ。俺に何か用か?』
{あなたにお伝えしたいことが。キングの部下についての情報です}

落ち着いた佐藤の声の背後には車の走行音が聞こえる。どこかの通り沿いから電話をかけているのだろう。

{現段階の情報ですが、キングの部下は四人。ひとりはアメリカ国籍のアーサーレイノルズ}

 冷えきったリビングの暖房を入れてから、早河はテーブルに起きっぱなしになっていた昨日の朝刊の広告の裏面にボールペンを走らせた。

{他三人は日本人です。ひとりはあなた方が追っている小柳岳、シトリーと呼ばれている男です。あと二人はべリアルとダンタリオン。今のところ性別、年齢は不詳です}

白紙の広告の裏面にカタカナの走り書きが並ぶ。
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