早河シリーズ完結編【魔術師】

　〈ようこそ〉と書かれた文字の下に管理人と思われる人物の名前が記載されていた。

「ダンタリオン？　これが管理人の名前ですか？」
『小山にはまだ話していなかったが、ダンタリオンは貴嶋の手下だ。手下は小柳が名乗っていたシトリーとダンタリオン、もうひとりベリアルがいる。こいつらの名前はソロモン72柱と言われる悪魔集団のメンバーの名前らしい』

　真紀は早河の横顔を見据える。警察も掴んでいない貴嶋の部下の情報を彼はどこで入手した？

「その情報源について今は詮索しません。それよりも悪魔の名前がついた貴嶋の手下がこのサイトの管理人のダンタリオン？」
『そうだ。シトリー、つまり小柳岳もこのサイトに通っていた。管理人のダンタリオンとサイトを訪れた人間との通信のやりとりがここから見れる』

　〈掲示板〉の欄には多くの書き込みが載っていた。最も古い書き込みは4年前の2014年。貴嶋が脱獄する2年前から始まっていた。

　書き込みのほとんどは犯罪組織カオスとキング、貴嶋佑聖の復活を望む言葉が綴られている。ここには貴嶋を称賛する者達が集まっていた。

「頭が痛くなる内容ですね。私には理解できない」
『自分がやりたくてもできないことを成し遂げた人間を人は“神”として崇めるのかもな』

　例えば特撮の怪獣映画で街が怪獣に破壊される様をスクリーンで眺めた時、こんな世界壊れてなくなればいいと思う人間は自分の代わりに街を破壊してくれる怪獣を見て、“スカッとする”のではないだろうか。

犯罪者を神と崇める者の気持ちは理解し難い。けれど彼らは自分達が壊したくても壊せない、どうにもできない現実を代わりに壊してくれる、“犯罪組織カオスのキング”に陶酔することで現実逃避をしている。

『一連の犯行が貴嶋の仕業だと思うか？』
「真愛ちゃんと斗真くんが誘拐されて木村隼人が狙われました。貴嶋の関与は否定できません」
『もちろん未成年者集団自殺、子ども達の誘拐、木村隼人の殺人未遂、すべて貴嶋が裏で糸を引いているのは間違いない。だが、それだけではない気がする。現段階で貴嶋の姿がまるで見えない。こんなやり方は目立ちたがりのアイツらしくない。いつもの貴嶋ならもっと華々しくやるだろ」
「言われてみれば確かに……。ツイッターやこうしたサイトに貴嶋の名前は出てくるのに、貴嶋の足跡は全くない。元々、足跡を残す奴ではないですが今回は特に何か違和感がありますね」

　早河と真紀が感じている共通の違和感の正体も鍵はこのサイトの管理人、ダンタリオンが握っている。

『……小山。頼みがある』