早河シリーズ完結編【魔術師】
 薄暗い待合室で早河が待っていた。真紀は今度は早河の二つ隣の席に腰を降ろした。

「木村隼人を襲った被疑者として佐藤瞬が捜査線上に浮上しました。警備員が非常階段から降りてくる佐藤に似た男を目撃したと」
『……そうか』

 早河はそれしか言わない。驚いている様子もなかった。彼は手に持つタブレット端末を操作して画面を真紀に向けた。

「これは?」
『貴嶋のファンサイト。さっき、なぎさがこのサイトを見つけて知らせてきた』
「ファンサイトって……あの貴嶋にそんなものが?」

真紀はタブレット端末を受け取って画面を眺める。

 黒い画面の中央に木彫りのマリオネットがいる。マリオネットは、両手足に絡み付く赤い糸をだらりと垂らして座っていた。
マリオネットに絡み付く糸が血のように見えて不気味だ。

「“我等が偉大なる神、貴嶋佑聖を慕う者達へ”……?」

彼女はマリオネットの足元にある明朝体の赤い文字を読み上げた。

『貴嶋のような犯罪史に名を刻んだ異常犯罪者は、ある一部の人間にとっては神のようなカリスマ的な存在らしい。これは犯罪マニアの奴らが集まって作られたサイトだ』

 腕を伸ばした早河が真紀の持つタブレットの画面をスクロールする。画面下部に〈入信〉ボタンがあり、彼はそこをタップした。

「そう言えば、自殺した未成年者達のツイッターにも貴嶋にこの身を捧げるとありましたね。あれは……」
『所謂、神に捧げる生け贄だろう。自分の命を捧げれば貴嶋が復活すると……。自殺した未成年者達が本当にそんなカルト染みた絵空事を信じ込まされて死んでいったのだとすれば、やりきれないな』

 少なくとも映画館で飛び降り自殺した小柳岳は、自分の命を生け贄に捧げれば貴嶋がキングとして復活すると、本気で信じていた部類の人間だったと早河は思う。

『今回の真愛達の誘拐と木村隼人の殺人未遂、事件の鍵はこのサイトにあると思う。根拠はサイトの管理人の名前だ』

〈管理人ページ〉の項目に早河の指が触れる。
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