早河シリーズ完結編【魔術師】
1月25日の木曜日を迎えた午前零時から捜査会議が始まった。指揮官の篠山恵子は、佐藤瞬を木村隼人殺人未遂容疑の重要参考人として手配する決定を下した。
恵子は現場に居合わせた菜々子の証言よりも警備員の曖昧な目撃証言を優先した。警備員の証言を疑問視して佐藤瞬の参考人手配に異議を唱える刑事達を押しきっての結論には、捜査本部の関係者から不満の声も挙がっている。
早河真愛の通学路と木村斗真が消えた公園付近で、不審なワゴン車を見かけたとの近隣住民の証言があった。Nシステムを使用して付近を通った車両の特定を進めているがこちらの捜査は難航を極めている。
捜査会議の最中も真紀は早河からの頼まれ事の件で頭を悩ませていた。早河の読み通り、事件の一端にあの人が関わっているとすれば……。
(厄介な頼まれ事引き受けちゃったなぁ。昔から早河さんは、何かあると私をこき使うんだから……)
会議中に思わず漏れた真紀の溜息に部下の土屋千秋が気付いていた。会議終了後、廊下を歩く真紀に千秋が駆け寄る。
「真紀さん、会議中もずっとうつむいていましたよね。体調悪いんですか?」
「ちょっとね。今回の事件は私も色々と感情が入って精神的に参ってるのかも。子どもの誘拐も母親として他人事じゃないからね」
廊下の一角に群がる刑事達が指揮官の篠山恵子の愚痴を溢していた。警察や民間企業で女性の管理職が増えている今の時代でも、女の下で働くことに不満を抱く男は多い。
「真紀さんは誘拐されている真愛ちゃんのお父さんの早河元刑事とお知り合いなんですよね」
「早河さんは私が警視庁に配属された時に先輩だった人なの。小柳の自殺現場に早河さんも居たはずだけど、会わなかった?」
真紀と千秋は、恵子の愚痴からだんだん女と言う生き物に対する愚痴に話が変わっていく刑事達の横を素通りして廊下を進んだ。
「私は芳賀さんと配置についていたので……。小柳の自殺で現場もドタバタしていて、早河さんにご挨拶もできませんでした。9年前のカオス壊滅の立役者として早河さんは有名です。どんな方ですか?」
「早河さんは有能な人よ。型破りで、誰も気付かない事にいち早く気付く目を持っている人。あの人の勘はだいたい当たるのよね」
「勘の鋭い人なんですね。さすがあの貴嶋と対等に渡り合うだけありますね」
その早河の勘の良さによって、真紀は頭を悩まされている。
目の前の渡り廊下を上野恭一郎が横切った。真紀は足早に去る上野の後ろ姿を目で追う。
今の真紀は前後左右どちらにも進めない靄《もや》の真ん中にいる。どちらに行くのが正しいのか、どこに辿り着くのが正しい選択なのか、そこまで導いてくれる者はいない。
「真紀さん? あの……」
「……なんでもない。土屋さんは芳賀くんと病院の張り込み担当だったね」
「はい。佐藤が木村隼人をまた狙いにくるかもしれませんからね。夜の病院ってちょっと怖いんですけど……」
千秋は眉を下げて苦笑いしていた。
恵子は現場に居合わせた菜々子の証言よりも警備員の曖昧な目撃証言を優先した。警備員の証言を疑問視して佐藤瞬の参考人手配に異議を唱える刑事達を押しきっての結論には、捜査本部の関係者から不満の声も挙がっている。
早河真愛の通学路と木村斗真が消えた公園付近で、不審なワゴン車を見かけたとの近隣住民の証言があった。Nシステムを使用して付近を通った車両の特定を進めているがこちらの捜査は難航を極めている。
捜査会議の最中も真紀は早河からの頼まれ事の件で頭を悩ませていた。早河の読み通り、事件の一端にあの人が関わっているとすれば……。
(厄介な頼まれ事引き受けちゃったなぁ。昔から早河さんは、何かあると私をこき使うんだから……)
会議中に思わず漏れた真紀の溜息に部下の土屋千秋が気付いていた。会議終了後、廊下を歩く真紀に千秋が駆け寄る。
「真紀さん、会議中もずっとうつむいていましたよね。体調悪いんですか?」
「ちょっとね。今回の事件は私も色々と感情が入って精神的に参ってるのかも。子どもの誘拐も母親として他人事じゃないからね」
廊下の一角に群がる刑事達が指揮官の篠山恵子の愚痴を溢していた。警察や民間企業で女性の管理職が増えている今の時代でも、女の下で働くことに不満を抱く男は多い。
「真紀さんは誘拐されている真愛ちゃんのお父さんの早河元刑事とお知り合いなんですよね」
「早河さんは私が警視庁に配属された時に先輩だった人なの。小柳の自殺現場に早河さんも居たはずだけど、会わなかった?」
真紀と千秋は、恵子の愚痴からだんだん女と言う生き物に対する愚痴に話が変わっていく刑事達の横を素通りして廊下を進んだ。
「私は芳賀さんと配置についていたので……。小柳の自殺で現場もドタバタしていて、早河さんにご挨拶もできませんでした。9年前のカオス壊滅の立役者として早河さんは有名です。どんな方ですか?」
「早河さんは有能な人よ。型破りで、誰も気付かない事にいち早く気付く目を持っている人。あの人の勘はだいたい当たるのよね」
「勘の鋭い人なんですね。さすがあの貴嶋と対等に渡り合うだけありますね」
その早河の勘の良さによって、真紀は頭を悩まされている。
目の前の渡り廊下を上野恭一郎が横切った。真紀は足早に去る上野の後ろ姿を目で追う。
今の真紀は前後左右どちらにも進めない靄《もや》の真ん中にいる。どちらに行くのが正しいのか、どこに辿り着くのが正しい選択なのか、そこまで導いてくれる者はいない。
「真紀さん? あの……」
「……なんでもない。土屋さんは芳賀くんと病院の張り込み担当だったね」
「はい。佐藤が木村隼人をまた狙いにくるかもしれませんからね。夜の病院ってちょっと怖いんですけど……」
千秋は眉を下げて苦笑いしていた。