シンデレラになりたくないドアマット令嬢は 、魔法使いとの幸せを思い願う
「ランベール!」
「使った事の無い魔法を過信するな。今のは私が居なければ死んでいたぞ。全く……紋章をつけておいて良かった」
 
 風に包まれた私はストンと地面に降ろされる。私の左手薬指が光っていたのでよく見てみれば、指に巻き付くようにして金色の古代語が浮かび上がっていた。
 
「それは命に関する危機が訪れた際に、強制的に私をその場に呼び寄せる紋章だ。つまり、本当に危なかったのだぞ?」

 ランベールから感じられるのは強い怒りだった。

「それに、どうして衣服がこうも乱れている?」
「これは……」
 
 ランベールに会えた安心感と、先程までの恐怖がグチャ混ぜになって涙が溢れる。嗚咽を漏らす私の様子を見たランベールは深く溜息を吐き、私をローブの中に隠すように抱きしめて「成程、私が悪かった。可愛くしすぎたな」と何故か謝った。

「ランベール、私本当は舞踏会なんて来たくなかったし、王子の婚約者になんてなりたく無い! 本当は……あの屋敷を出て、ずっとランベールと二人で、楽しく魔法の練習をして過ごしていたいの」

 彼の胸元から顔を上げて、必死で頼み込む。

「リエラ……本当に? 王子も家も何もかも全て捨てて、私と生きたいというのか?」
「そうよ! お願いランベール。私、貴方と一緒に居る時間が何より大切で……貴方が好きなの」

 私が想いを告げた瞬間。「そこまでだ」とチャーミング王子の低い声が響いた。ハッとしてランベールのローブの中から振り返ると、王子が腰に下げた剣のグリップを握り締め立っていた。

「ランベール・リナルド……肖像画でしか見たことのない、大魔法使い。まさか生きていたとは」
「おかげ様で。お前の先祖が私をドアマットになんて封印してくれたおかげで、随分と長生き出来た」

 ドアマットを魔法で修復し続けれる限りは永遠の命だ──と続けるランベールは、私を抱く力を強くする。

「何故封印されているのに自由に動ける?」
「残念ながらアカンサスの紋様は私の家紋なんだ。おかげでドアマット自体を自由自在に動かせて全く不便無かったよ」

 そういえばランベールのローブの襟元の模様と、ドアマットの柄は同じアカンサスの模様だ。

「封印は意味を成して無いのか……しかし、その女性は返して貰おう。彼女は、私の妃になるんだ」
「……嫌だと言ったら、王子サマはどうするんだ?」

 その瞬間、チャーミング王子は剣を抜きこちらに向かって駆ける。動揺で震えてしまう私とは対照的にランベールは微動だにせず、ただ『退け』と一言発した。すると、それだけで王子の体は後方に吹き飛んでいき──バンッ! と背中から建物の柱にぶつかり地面に崩れてしまう。

「この程度か、全く話にならん。久々に竜でも召喚して暴れようと思ったのに……こんな輩にリエラは渡せん。300年後に出直して来い」
「リエラ……? リエラッ!!」

 私の名前を得たチャーミング王子が、体を起こしながら私の名を必死に叫ぶが。ランベールは私を横抱きにして、トンッと地面を蹴り宙に浮かぶ。

「リエラ、覚えておけ。これが宙に浮く感覚だ」
「え?」

 急に魔法の指導をされ始めてキョトンとしてしまう私だったが、次のランベールの言葉を聞いて……今度は嬉しさから涙が溢れる。

「ずっと私と二人で、楽しく魔法の練習をして過ごし生きるのだろう?」
< 23 / 24 >

この作品をシェア

pagetop