大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 叶津さんは、一瞬だけ引きつった表情を見せるが、すぐに微笑んだ。

「い、嫌だわ、お義母様……ご冗談を」

「あら、ごめんなさいね。――本気よ」

「――え」

 淡々と告げる亜澄さんを、叶津さんは、放心状態で見つめた。
 そして、徐々にその顔は真っ赤になる。

「……な、にを……。江陽さんは、私と結婚するとおっしゃったんですよ?」

「――叔父との交換条件でね」

 すると、ソファで沈黙を守っていた三ノ宮社長が、口を開く。

「……え……」

 呆然としている彼女に、彼は、憐れむように言った。

「江陽は、叔父が出した条件と交換に――不本意な結婚を承諾したに過ぎません」
「そ、そんな事、お祖父様は一言も……!江陽さんが、お望みになったと……だから、私……」
「申し訳ありません。――ただ、事実ですよ。……あなたとの結婚を承諾させるために、私達一家が人質(・・)になったんです」
 叶津さんは、跳ねるように、隣に座っている江陽を見上げた。

 ――”人質”。

 ――言い方は不穏だが、確かに、意味合いは同じだろう。


「……江陽、さん……?――そんな、事……一言もおっしゃって……」

 動揺を隠しきれないまま、叶津さんは、そう言ってヤツの腕に触れようとする。

 ――だが、その瞬間。



「――触るなっ!!!!」



 ヤツは、そう言って、その手を払い落とした。


「ち……ちょっと、江陽!」


 私は、彼女の呆然とした表情に、思わず、見かねて口を出してしまった。

「――羽津紀」


「アンタ、仮にも結婚相手に、それは無いでしょうが!」


 そして、そう――私は、自分で自分の首を絞めるのだ。
 すると、江陽は、血相を変えて叫んだ。



「オレはっ……お前しか、好きじゃねぇのに!!!!」



「私は、一生大嫌いだって言ったでしょうがっ……!!!!」



 反射的にお互いに言い合い――そして、視線が合う。
 零れる涙は、もう、止まらなかった。

「羽津紀さん」
 すると、翔陽くんが、そっと背中をさする。

「翔陽、触るんじゃねぇ!羽津紀はオレの女だ!」

「今は、僕の婚約者だよ!」

「――っの……!」

 血相を変え、翔陽くんに殴りかかろうとした江陽を、今度は、三ノ宮社長が止めた。

「――やめないか、江陽、翔陽」

 その、淡々とした声音は――むしろ、彼の怒りを感じさせ、二人は一時停止する。
「――こういう事ですよ。……ご理解いただけますか?」
 そして、三ノ宮社長は、真っ赤を通り越して、真っ青になった叶津さんを見やった。

「……で、でもっ……もう、式場も……」


「あなたは――愛の無い結婚をお望みで?」


「――……っ……!」

 その鋭い一言は――彼女の全てを停止させた。
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