大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 それから、久し振りに普通のデートを楽しみながら、そろそろ夕時、という頃、江陽のスマホが鳴り響いた。
 ヤツは、近くのコンビニの駐車場に車を停めると、手に取って確認する。
「――親和(しんわ)だ」
「え」
 そう言えば――楠川さんには、自由になった事を伝えたのだろうか。
 私が視線を向けると、ヤツは、若干ひきつりながら言った。

「……マズい……親和に、連絡取ってなかった……」

「え⁉」

 アンタ、高校からの親友に、何て仕打ちよ!

 私は、眉を寄せるが、江陽が電話に出たので、口を閉じた。
「――……わ、悪い、親和……」
 そう切り出し、数分のやり取り。
 そして、電話を終えると、ヤツは、私に言った。
「……これから、ヤツと会うコトになったけど……良いか……?」
「しょうがないじゃない。こればっかりは、アンタが悪いわ」
「……だって、お前が最優先だったし……」
「――私のせいだって言いたいの?」

「そういう訳じゃねぇけど……うれしくて、完全に頭から抜けてた……」

 江陽は、そう言って、熱っぽい視線を向けてくる。
「……バカ……」
 それに耐え切れず、私はうつむいたまま、そう言うと、ヤツの手を握ったのだった。



「良かったなぁ、江陽。うん、良かった、良かった」

「……悪かったって……親和……」

 目の前で繰り広げられるやり取りは、もう、既に二桁だ。
 若干、うんざり気味の江陽は、助けを求めるように私を見やるが、素知らぬ顔でグラスに口をつけた。
「ねえ、羽津紀ー、そろそろ、スイーツにしないー?」
「あら、そうね。――……いえ、でも、今日はやめておこうかしら」
「えー⁉せっかく、新しいヤツ出たのにー?半分こなら、どうー?」
 私は、聖が差し出したメニュー表に、視線を向ける。
 スイーツの写真は、リニューアルされ、どれも美味しそうだ。
 中でも、限定新商品は、クリームたっぷりのパンケーキ。
 ――けれど。
「……ごめんなさい、今日は……」
「ええー⁉」
 少々口ごもりながら聖を見やると、ふてくされるように、眉を寄せられた。
 ――もう……それは、反則よ、聖。
 その可愛らしさに、すぐに白旗を上げる。
 私は、チラリと江陽に視線を向けると、彼女の耳に手を当て、こそり、と、伝えた。

「……えっと……ダイエット……というか……」

 その一言で、ピン、ときた聖は、ニヤニヤとしながらうなづいた。
「そっか、そっか。ゴメンねー、気が利かなくて」
「……聖」
 からかうような言い方に、恥ずかしくなる。

 ――だって、どうせ、この後……ホテルじゃない!

 食べ過ぎて膨らんだお腹は、見せたくない!

 聖は、うなづくと、下に小さく写っているシャーベットを指さした。
「じゃあ、これ半分なら、大丈夫?」
「え、ええ……まあ、それくらいなら……」
 そう言うと、店員を呼び、追加注文する。

 ――ああ、まさか、私がヤツに気を遣う日が来るなんて!

 でも――さすがに、年齢とともに緩んでいく身体は、何とかごまかしたいのだ。

 もう、それで嫌われるとは思わない……けれど……私自身が気になってしまう。
 そんな風に思う事自体、考えられなかったはずなのに――本当、恋愛とは不思議なものだ。



「で、お前等、いつ付き合い始めたんだよ」

 そろそろ、締めに入ろうかという頃、グラスを置いた江陽は、楠川さんと聖を交互に見やり尋ねた。
 ヤツにとっては、青天の霹靂だろう。
「――お前が、いろいろあった頃?」
「ねー」
 そう言うと、二人でうなづき合う。
 ――順調そうで、何よりだ。
 幸せそうに笑う聖を見やり、心は凪ぐ。
 私は、聖の頭を撫でながら、目の前に座っている楠川さんに言った。

「楠川さん、聖を泣かせたら、この私が黙ってませんからね!」

「――ハ、ハイ」

 すると、彼は、背筋を伸ばし、コクコクとうなづいて返し、

「きゃー羽津紀ー、カッコイイー!」

 聖は、そう言って、うれしそうに私に抱き着いてきた。
 その光景を見やり、男二人、顔を見合わせる。

「……おい、本ッ当……に……お前等、何にも無いんだよ、な……??」

 ひきつりながら言う江陽に、私はニヤリと返す。

「あら、このくらい、私達には通常仕様だけど?」

「――……え」

「だよねー、羽津紀ー!」

 動揺を見せるヤツをよそに、聖と微笑み合う。
 そして、やってきたデザートを、お互いに食べさせ合ったのだった。
< 120 / 143 >

この作品をシェア

pagetop