大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 新しい役職は――企画課、”新規開拓班”。
 その、班長兼、ただ一人のメンバーが私となった。
 班という扱いなのは、おそらく、この先を考えての事だろう。
 辞令はすぐに発表され、企画の内容も公表された。


「羽津紀ー……」

「そんな顔しないの、聖。美人が台無しよ?」

 私の出発まで――あと三日という頃。
 聖は、荷造りの手伝いに来てくれた。
 いくら近県とはいえ、もう、ここには戻らないのだから。

「……だって……こんな風にお別れするなんて、思ってなかったよー……」

「別れるわけじゃないでしょ。――同じ会社なんだから」

「でも……ここには帰って来ないじゃない――っ……」

 ついに涙腺が崩壊した聖は、泣きじゃくりながら、私に抱き着こうとした。

 ――だが。


「……羽津紀……?」


 反射でお腹をかばってしまい――それを見た聖は、呆然とする。

「……あ、ご、ごめんなさいね……。つい……」

 ――何とか言い訳を――。

 そう考えたが、何を言っても、彼女には勘付かれるような気がした。

「……羽津紀……何か、ヘン、だよね……?」

「――そ……そう?」

「――……この前から……体調不良、良くなってないよね?!何か、ヤバイ病気じゃ――……」

 そう言いかけ、彼女の視線は私を通り越し、部屋の隅へ。

「聖……っ……!」

 ――そこには――。

「……羽津紀……?」

 私は、急いで、棚にあった、先日買ったマタニティ雑誌を隠そうとしたが、時すでに遅し。

 ――どうしよう。
 ――どう、言えば――……。

 パニックになりかけながらも、何かを言わねばならない空気に、拙い言い訳を口にする。

「……ち、違う、の。……い、妹っ……そう、妹が、ね――……」

 すると、聖は、そっと私を包み込むように抱き締めた。



「大丈夫。……江陽クンには、言わないよ……」



「――聖」


 その言葉に、すべて見抜かれたのだと、あきらめる。

 ――私の、覚悟も、すべて――。


「――……ゴメンね、気づかなくて……」


 涙ぐむ彼女に、私は首を振って返した。
「……私こそ……ごめんなさい……。……言えなくて……」
「ううん。……でも……これから、どうするの……?」
 聖は、ゆっくりと離れると、私に尋ねた。
 もうすぐ、長期出張に向かうのだ。
「……その先々で、産科に行くつもり。……一応、紹介状書いてもらったから……」
「そっか。――……一人で、大丈夫なの……?」

「――もう、決めたの」

 私は、聖を真っ直ぐに見つめ、告げた。


「――……アイツの前から、消えるわ。……この子は――私が、一人で育てる」

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