大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 いよいよ、出発の日が来た。
 私は、会社の荷物を引き上げ、見事に何も無くなったデスクを見つめる。

 ――何だかんだで、この場所も、居心地は悪くなかった。

 いろいろあり過ぎた五年間を思い出し、少しだけ、胸が締め付けられる。
 けれど、辞める訳ではない。
 ――これから、なのだから。

「じゃあ、気をつけて行っておいで。良い連絡を心待ちにしてるから」

「……出がけにプレッシャーをかけないでください、神屋課長」

 苦笑いでうなづき、私は、ドアの前で、こちらを見送るように視線を向けていた、企画課の皆さんに頭を下げた。

「――今まで、大変、お世話になりました。――今後は、遠方から力になれるよう、精進いたします」

 そう告げると、片桐さんが、立ち上がって言った。

「――行ってらっしゃい、名木沢さん。どこにいたって、キミは、企画課(ウチ)の人間だよ」

「……ありがとうございます……」

 すると、ポツポツと、頑張って、や、行ってらっしゃい、との声が聞こえ、私は、驚いて周囲を見回す。
 ――気がつけば、課の全員が、立ち上がって見送る体勢を取っていた。

「……え……」

「……名木沢クン、胸張って、行っておいで。――みんな、応援してるからさ」

 課長が、穏やかに微笑み、言った。

「――ハイ」

 私は、浮かびそうな涙をこらえながら、深々と頭を下げ、部屋を後にしたのだった。



 一旦、マンションに帰り、私は、荷造りの終えたスーツケースを持つ。
 家具家電付きの部屋を、行く先々で会社が押さえておくと言われたので、最低限の荷物だけだ。
 体調を考え、重いものは、先に宅配便で送ってある。
 私は、管理人さんに挨拶を終えると、ゆっくりと駅へと向かい歩き出す。

 ――きっと――もう、ここには戻らないだろう。

 そう思うと、見る物すべてが、名残惜しい。
 ――その中に、必ず江陽の姿があるのだから――。

 歩を進めるごとに、これまでの記憶がよみがえる。
 でも……もう、決めたのだ。

 ――別れも告げずに去る事を、アイツは許さないだろうけれど――……。

 私は、つわりでモヤモヤとしている胸にそっと触れ、深呼吸する。


 ……この先――私と、お腹の子が……アイツの――そして、三ノ宮家の皆さんの枷になる訳にはいかないのだ。


 それが、考え抜いて出した答えなのだから、もう、後には引けない。


 ――私は、アイツがくれた想い出と、この子――そして、仕事を支えに、生きていく。


 ――……たとえ、この先、誰に何を言われようと――



 これが、私の選んだ道なのだから。


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