大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
31.私は、一人で大丈夫
「おーい、昇龍さん、お待たせしましたねー」

「いえ、お忙しいところありがとうございます」

 人好きのする笑顔を見せながら、白衣に身を包んだ年配の男性が、事務所のドアを開けて入ってくる。
 市街地から少し離れた、田んぼの真ん中にある食品工場会社。そこの社長だ。
 私は、ストーブがまだ活躍している部屋の中、邪魔にならないよう立ったまま頭を下げた。


 ――長期出張を開始して、四か月。

 今、私は、北の方に向かいながら、ウチの社長へと、珍しい調味料やご当地食材などを送るという仕事をしている。


 ”新規開拓班、班長、名木沢羽津紀”。


 ――もう、妊娠六か月。

 お腹は――さすがに、膨らみが目立つようになってきた。



「羽津紀ちゃん、ホラ、もう、社長来たから、座って座って。お腹の子に障ると悪いよぅ?」

 事務のおばちゃんが、そう言って、私にイスを差し出してくれる。
 社長が来るまでは、と、固辞していたのだが、いらっしゃったので素直にうなづく事にした。

「ホラ、羽津紀ちゃん、お茶どうぞ」

「ありがとうございます」

 すると、また、別のおばちゃんが、お茶を差し出してくれれば、

「お茶菓子もあるで」

 どこからか持って来た和菓子の山を、おじさんが差し出してくれる。

「あ、あの、ありがたいんですが……あまり、太るのも差し障りがあるそうなので……」

 弱り果てながらも、皆さんにそう伝えると、あっけらかんと言われた。

「何言ってんの。お母さんは、ちゃんと食べて、元気でいなきゃならんのよ!」
「そうそう。ホラ、食べなせて」
 有無を言わさぬ口調に、私は、苦笑いでうなづいた。

「……じ、じゃあ……あの……少しだけ……」

 押しに負けるのは、もう、何回目か。

 出張が始まった当初は、門前払いも当たり前で――ひと月に二桁以上回ったのに、一つも成果が得られる事はなかった。
 けれど、徐々にお腹が大きくなってくるにつれ、対応が柔らかくなってくるところも増えたのだ。

 ――妊婦さんが頑張ってるんだよ。少しくらい、話聞いてあげなって。

 大体のところは――年配のおばちゃん達が多い、小さな工場なのだが――逆に、そういうところに貴重なものが埋まっているのだと知ったのは、妊娠五か月目の頃だ。
 中心地から少し離れた、山の中の工場。
 地元密着のそこに、その地域だけに流通しているスパイス風味のお菓子があったのだ。
 それを送る事ができると、社長は、一気に営業部を送り込んできた。

 ――そして、今、まさに、ご当地コラボ商品の企画が、片桐さん達四班の手で練られているところらしい。

 ひとまず役目を果たせた安心感で、少しだけ体調が崩れてしまい、その方達にとてもお世話になってしまったが――人とのつながりの大切さを、身に染みて実感したものだ。

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