大嫌い同士の大恋愛     ー結婚狂騒曲ー
 その夜、マンスリーマンションに帰ると、聖からメッセージが来ていた。

 ――今日も、また、江陽クンが来てたよ。

 私は、痛む胸を押さえながら、彼女に返信する。

 ――ごめんなさい、嫌な役目を押しつけちゃって。

 そう返せば、全然OK!、とスタンプ。

 ――聖と社長だけは、私の居場所を知っている。
 
 それ以外の方には、企業秘密なので伝えらえない、と、してもらった。
 社長だけには、事情を伝えないといけないと思ったが――もう、何かを察していたようだった。


 ――わかったよ。
 ――くれぐれも、身体にだけは、気をつけるんだよ。


 その一言で、私の思いが伝わっているのだと理解した。


 社運をかけた、新規企画。
 ――そのための、長期出張。
 行き先は――企業秘密。

 そう、全社員に通達が行ったようで、しばらくは、社内がざわついていたと、聖からメッセージが届いていた。


 そして――江陽が不審に思い、マンションにやって来たのは――私が出発した翌日。

 もう、部屋は引き払って何も残していなかったし、プライベートのスマホは出る直前に解約した。
 聖には口止めしていたから、居場所はわからないはずだ。
 ただ、何も伝えないのも、無駄足を踏ませる事になるので、彼女に社内と同じような説明をしてもらったが――それ以降、頻繁に――それこそ、毎日のように、ヤツは、私の居場所を彼女に尋ねているのだそうだ。

 ――一歩間違えれば、ストーカーだよねぇ。

 聖には、迷惑だろうが――こればかりは、仕方ないのだ。



「よいしょ、っと……」

 膨らんだお腹を支えながら、ゆっくりと手をついて立ち上がる。
 いよいよ、見た目も妊婦になってきたものだ。

 私は、キッチンに立つと、栄養バランスに気をつけながら、食事を作る。
 つわりは――幸い、四か月頃には収まったが、それまで、三回ほど点滴するハメになってしまったので、さすがに懲りた。
 そして、出来上がったものをテーブルに並べ、手を合わせる。

「……いただきます」

 チラリとお腹を見やり、私は、微笑んだ。


 ――あなたには――苦労かけるかもしれないけど――……

 ――絶対に、私が守るからね……。


 シングルマザーとして生きていく覚悟は、もう、決めている。
 いろいろな本や、資料。受けられる支援や、金銭的なものも、準備を始めた。

 実家には、時折連絡を入れるが、居場所は会社の事情で話せない、と、毎回念を押している。
 もう、その頃には、江陽から、私と入籍もしていない事は伝えられたようで、母親は、火が付いたように怒っていたけれど――さすがに、二か月もすると落ち着いてくれた。

 ――とにかく、連絡だけは入れなさいよ。

 母親に言われたその言葉は――自分達の事か、江陽の事か――。


 けれど……もしも――いつか、会う事ができるなら――母親に、孫の顔だけでも見せてあげたいと思った。

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